天皇杯で柏と千葉が対戦する千葉ダービーが実現した。公式戦では２０１０年のＪ２以来、４年ぶりの顔合わせだ。
ただこの両チームは、毎年シーズン開幕前のプレシーズンマッチ、ちばぎんカップで顔を合わせている。今年の対戦では、千葉ディフェンスのミスを突いた工藤壮人が前半終了間際に先制点を挙げ、後半には千葉もケンペスがＰＫを決めて１−１。試合は９０分では決着が付かず、ＰＫ戦の末に柏が勝利した。

しかしこれは２月の対戦である。時期的に考えてもまだ両チームとも本調子ではなく、プレシーズンマッチだけにテストの色合いも濃い。しかも柏はその時と今とではシステムが異なり、千葉にいたっては監督が替わった。ちばぎんカップの対戦は参考程度に留めておいたほうがいい。

柏は、７月のリーグ中断明け直後こそ調子が上がらなかったが、逆境を力に変えたかのように８月以降は同じチームとは思えぬほどのクオリティーを発揮している。第１９節横浜FM戦の前半こそ乏しい内容に終わったものの、第１８節川崎Ｆ戦、スルガ銀行チャンピオンシップのラヌス戦、横浜FM戦の後半、そして前節の神戸戦と、プレッシングの連動性、球際の攻防、セカンドボールの争いなどで相手を上回り、攻撃力の高いチームを封じ込めた。８月の公式戦は３勝１分と、結果も申し分ない。
神戸戦後の会見では、ネルシーニョ監督も「ディフェンスを前線から最後のところまで、選手たちが整理し、よく対応できた。スペースを使いながらボールを奪った後の攻撃もやり切って終わることができた」と攻守において高い評価を与えている。

対する千葉は、関塚隆監督就任以来、天皇杯２回戦を含めた公式戦では７戦無敗が続く。それはそれで評価できる部分であるが、直近の３試合は引き分けで、ここ２戦はスコアレスドローと上位との勝点差を縮めることができない。
前節の熊本戦は、相手の出足の鋭さに押され、セカンドボールも拾えない苦しい展開を強いられたが、その中でも何度か惜しいチャンスを作った。「数多くチャンスを作ることと、そこでのアイデア、落ち着き、技術。そこを積み重ねていくことが大事」と関塚監督も現在の課題を述べるように、拮抗した試合の中で、いかにチャンスで決め切るかが問われるところだろう。裏を返せば、守備が安定してきただけに、その決定力の問題さえ解消できればそもそも高い実力のあるチーム、波に乗ってもおかしくはない。

そんな千葉の強みは左サイドにある。中村太亮、山中亮輔の絡む攻撃はスピーディーで厚みがあり、中でもゴールを狙える山中の左足は強烈だ。そして好クロスが上がれば、ゴール前にはケンペスという昨季のＪ２得点王が仕留める形が確立されている。また、熊本戦では森本貴幸、佐藤勇人が途中から出場するという選手層の厚さまで見せつけた。柏にすれば、“Ｊ１級のチーム”と見なして対峙しなければ勝ち目はないだろう。

柏は川崎Ｆ、ラヌス、神戸に勝利を収めた戦い方を変える必要はない。高い位置からマーキングを掴みに行き、相手のパスワークを封じながら、奪った後は状況に応じてカウンターとポゼッションを使い分ける。攻撃陣ではレアンドロが絶好調、工藤はゴールこそ生まれていないが攻守に貢献度は高く、高山薫の縦へのスピードも大きな武器と化した。
もちろん、千葉のキーマンである左サイドの中村と山中は要警戒である。そこは柏の守備の圧力と攻撃力をもって彼らを敵陣深くまで押し込むことが理想的だが、むしろ柏にとっては中村と山中に前へ出てきてもらった方が好都合かもしれない。というのも、彼らが深い位置を取れば藤田優人、鈴木大輔をはじめ、連動した柏の守備組織がきっちりと捕まえるはず。そうなれば、相手守備陣の背後を取ることに長ける工藤が必然的に空く。現在、上向きにあるチームの勢いをさらに加速させるためには“エース”の爆発は必要不可欠。何よりも、工藤本人が一番強くゴールを欲しているに違いない。

ようやく８月に入って点火された柏の反攻、そして関塚監督体制以来続く千葉の無敗。この真夏の千葉ダービーを制することは、双方にとって天皇杯４回戦へ勝ち進む権利を得るだけではなく、柏ならリーグタイトル奪還、ヤマザキナビスコカップ連覇、２年ぶりの天皇杯制覇、千葉ならＪ１昇格と、それぞれの目標へ弾みを与える。勝利を収め、一気に上昇気流に乗りたい。

以上

2014.08.19 Reported by 鈴木潤