雑な試合になってしまった。風間八宏監督が会見の冒頭、皮肉を込めて「久しぶりに素晴らしい(笑)点が入るゲームをやってしまった、というところですね」と苦笑いするのも仕方ない、という試合だった。
前半5分に先制された川崎Fは、その5分後に小林悠が同点ゴールを奪うと、さらに13分に大久保嘉人がCKを蹴りこんで逆転に成功する。その後も追加点を積み重ね、前半だけで4点を奪った。勝利至上主義を掲げるチームであれば、後半は流して試合を終わらせるというやり方をしていても不思議ではなかった。しかし生真面目に試合を作ろうとし続けた川崎Fは、C大阪の捨て身のプレッシャーを真正面から受けてしまい失速。失点を重ねた。
立ち上がりに失点する悪弊はこの試合でも修正できていなかった。丸橋祐介という、分かり切っていたはずの選手が放つクロスを、これまた分かり切っていたはずの南野拓実という、ゴールに飢えたストライカーに合わせられ先制点を奪われた。前節の浦和戦を含め、既視感を感じさせる試合となるが、ここからの川崎Fはタフだった。この失点にも動じることなく"自分たちのサッカー"を続けたのである。
タフさの傍証の一つとして、大島僚太の発言を挙げたい。「(早い時間の失点は)繰り返したらダメですし、改善しなければならないです」とフォローしつつも、「早すぎるとは思いましたが、早すぎて(残り時間があったので)慌てることはなかったです」と述べている。その言葉通りと言おうか、結果がそうなったからだとも言えるが、川崎Fは強さを見せた。風間監督が、攻撃を意識していた布陣だと強調する3トップが躍動し、この動きに連動した2列目以降の選手たちがピッチを縦横無尽に動き回る。右サイドにいたはずの森谷賢太郎がゴール前に顔を出し、3バックの一角のはずの小宮山尊信が何度となく攻撃に参加した。中村憲剛はそんな川崎Fの前半について「マークすべき人間がどこにいるのかがセレッソはわからなかったんじゃないかと思います」と述べてC大阪の選手たちに同情を投げかける。中村にそう言わしめるだけの流動性を川崎Fは発揮し、C大阪はそれに翻弄された。だからこそ、小林が決めた同点ゴールの意味は大きかった。やるべきことが間違いではないという自信をチームに与えたからだ。
大久保が決めた2点目はCKからのもので、突き詰めればこのCKも小林の個人技と、その個人技を引き出した川崎Fの流動性がもたらしたものだった。この日2ゴールの小林は、特に前半、C大阪の最終ラインとの駆け引きを繰り返し、裏を狙い続けた。川崎Fは26分にレナトが自らの突破で得たPKを決めると、45+1分に中村がダメ押しとも言える4点目を決めている。前半だけで3点の差を手にした川崎Fは、これで楽に試合を終わらせることができるはずだった。
しかし前半の拙い試合運びを反省したC大阪は、ハーフタイムに2人の選手交代を敢行し「システムを3−5−2に代えて、ディフェンスに関してはマンツーマン気味に」(ペッツァイオリ監督)守備システムを変更した。これによって川崎Fの攻撃をある程度封じたC大阪は「アグレッシブに守り、前へ前へとボールを奪いに行った」(ペッツァイオリ監督)ことで数多くのチャンスを作り出す。現実的な脅威として、降格を意識せざるを得ないC大阪のなりふり構わない試合運びは、川崎Fのサッカーを壊す。
「相手が割り切ってドカンと蹴ってきて、それで少し間延びしてしまったのかなというところはありました」と後半のC大阪の試合運びを振り返る大島は、この戦いに対応しきれなかったと悔しさをにじませる。稲本潤一や、谷口彰悟、實藤友紀ら複数の選手が口にした「距離感の問題」が発生し、川崎Fはペースを失った。
立ち上がりに失点する悪弊を後半にも露呈した川崎Fは、49分に2失点目を喫すると、防戦一方の展開のまま74分にセットプレー崩れの流れの中、藤本康太にヘディングゴールを許し、3点目を失った。この失点直後から、川崎Fは自信をなくしたかのようにバックパスを増やし、単純なクリアに逃げる場面が増えた。ズルズルと失点を積み重ねてもおかしくはない展開ではあったが、川崎Fはかろうじて踏みとどまる。結果的に、81分に小林による5点目を奪えたことで、85分にフォルランに決められた4失点目が致命傷となることはなかった。
普通であれば、3点差はセーフティーリードだ。ただ、過去にも3点差を逆転された前歴のある川崎Fにとって、この苦戦はありうるものでもあった。ただ、課題が残った試合でありながら結果的に勝点3を手にした事実は前向きに捉えていいものであろう。イケイケの前半から一転し、失点を重ねた後半の戦いをヒヤヒヤしつつ見ていたサポーターも多いかと思うが、最後に逃げ切る勝負強さを川崎Fは身につけたと評価したい。簡単にクリアしたり、試合を壊すやり方は取らない。バランスを崩して前に出る相手の攻撃をしのぎ、きっちりと勝ち星を手にしたこの経験を次に繋げてほしいと思う。
その一方で、猛追しながらも1点追いつけずに敗れたセレッソは、今節の結果、降格圏に沈むこととなった。会見でペッツァイオリ監督は「我々は降格圏で戦っていますし、降格争い(残留争い)を続けなければならない状況にあります。この戦いはシーズンが終わるまで続くと思います」との言葉で覚悟を述べていた。
4試合無得点だったチームの4ゴールは明るい兆しだとも言えるが、手放しで喜ぶわけにも行かなさそうだ。川崎Fの選手たちが、失点については対応のしようはあったと述べているからだ。川崎Fの甘さが出たからこそ決まったゴールだったとの可能性を念頭に置きつつ、さらに精度を磨く必要があるはずだ。
リーグ戦では2戦2勝となった川崎Fだが、2週間ほど後にヤマザキナビスコカップでの再戦が決まっている。ドタバタした試合を見せた川崎Fは、この再戦までにどれだけの進化を見せるのだろうか。そして勝ち慣れないC大阪は、新戦力のカカウの獲得を含めて、どれだけの改善を見せるのか。そうした点に注目して、9月3日、7日に開催されるヤマザキナビスコカップを待ちたいと思う。
以上
2014.08.17 Reported by 江藤高志
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