森保一監督が「自分のサッカー人生に、こういう記憶はない」と語り、水本裕貴や柏好文も口を揃えて「初めての経験」と言う。全天候型スポーツであるサッカーにおいて「試合順延」というケースがいかにレアなものか、彼らのコメントで理解できるというものだ。

９日に行われる予定だった広島対鳥栖戦は、台風11号の接近に伴い開催を中止し、11日への順延が決まった。試合開始予定時刻の19時から21時、そしてその後の天候を台風の進路（広島を直撃する可能性もあった）や天気予報などで確認した場合、特にサポーターの帰宅時に暴風雨が襲うことが考えられた。公共交通機関の乱れや運休などの可能性も含め、非常に危険な状況になることも予測できた。その後、台風は進路をやや東よりに変え、速度も上がらずに広島を試合予定時刻に直撃することはなかったが、それは結果論。観客の安全を第一に考えた中止・順延の判断は、賢明だったと言える。

過去の事例を振り返れば、悪天候によるJリーグの中止・順延の例はある。1996年8月16日のナビスコカップ・京都対柏戦が台風の影響で8月24日に順延された他、昨年は9月15日のJ2リーグ・徳島対山形戦がやはり台風による順延で翌日に試合が行われたケースもある。広島では、1999年8月18日の対福岡戦で、試合途中から強烈な雨と雷が鳴り響いたため、ハーフタイムに中止が決定。10月2日に改めて、90分間の再試合が行われた事例もある。
ちなみに昨年の徳島対山形戦での順延された試合結果は、引き分け。2007年、やはり台風の影響で中止が決定され、翌日に試合が行われたＪ２・福岡対仙台戦は０対１でアウェイの仙台が勝利している。移動や宿泊、練習場所の確保などの環境面を考えれば、順延はアウェイ側に不利ではないかという推測は成立するが、これまでの結果から考えれば、さしたる影響は与えないようだ。

とはいえ、選手は試合開始日に向けて気持ちと身体をつくっていくもの。監督やフィジカルコーチ、メディカルスタッフらも、試合開始時刻に肉体やモチベーションが最高潮になるよう、調整をサポートしていくものだ。順延・中止が決して珍しい出来事ではない野球においても、登板予定試合が順延になった事実が投手の状態に影響を及ぼすことは常識である。悪天候のためとはいえ、広島も鳥栖も、この順延が選手のコンディションに影響を及ぼすことは否めない。

ただ、両チームが置かれている状況を紐解くと、この順延は双方にとってポジティブに受け止めることができる。故障者が続出していた広島は、昨日の練習で塩谷司が合流。紅白戦でも迫力のあるプレーを見せ、復帰に向けてのアピールを見せた。森保監督も「プレーを見るかぎり、大きな問題はない。メンバー入りに向けて、前日のトレーニングで確認したい」と手応えを口にしている。塩谷自身、合流前日から「痛みはもうない。やれると思っている」と語っており、練習によるリバウンドがなければ彼が先発する可能性も出てきた。

一方の鳥栖にしても、試合前日に発表された突然の監督交代による動揺が、この２日間の空白によって鎮まる可能性が高い。吉田恵新監督の誠実な人間性と情熱は、広島で現役としてプレーしている時に目の当たりにしている。監督としてどういう可能性を持っているのか、長期的展望を持ってチームをつくっていけるのかは当然未知数ではあるが、２日間あれば選手の気持ちを落ち着かせ、試合に集中させることは可能なはずだ。

いずれにしてもこの順延がどちらにポジティブに転ぶかは、まさに神のみぞ知る。そしてもちろん、この２日間の空白をより前向きに受け止め、集中した準備ができたチームが結果を出すことは、疑いない。ゆっくりとした速度で北上を続ける台風11号も、今夜から明日にかけて、日本海に抜ける見込みだ。天気予報では、11日は晴れ時々曇り。18時から24時までの降水確率は０％である。土曜日よりも遙かにいい天候で、激戦必至の闘いが行われる予定だ。チケットは、8月9日の日付が入ったものが、そのまま有効になる。順延というアクシデントも跳ね返すプレーを見せてくれるはずの両チームの選手たちに、ぜひ熱き声援をお願いしたい。

以上

2014.08.10 Reported by 中野和也