それは本当に久しぶりに見る光景だった。決勝点が決まった瞬間、清水の選手たちが一斉にベンチに駆け寄り、大榎克己監督以下、スタッフ・選手たちが誰彼となく抱き合い、歓喜を分かち合う。このゴールをアシストした河井陽介が、「大榎さんは難しい時に監督を引き受けてくれたし、早く監督に初勝利をプレゼントしたかった」と語った想いは、選手全員に共通するもの。新たに生まれたチームの一体感が、清水サポーターに大きな希望を与えたシーンでもあった。
就任から2試合目、初めてホームゲームを迎えた大榎監督は、スタメンをいじらなかった前節と比べて2人を変更。GKを相澤貴志から櫛引政敏に代え、右サイドバックのヤコヴィッチをベンチに下げて李記帝を左サイドバックとして今季初先発(リーグ戦)させ、吉田豊を右に回すという形で守備のテコ入れを図った。DFラインに手を加えた理由は、簡単に裏をとられることが多いという課題に対して「ラインコントロールのところを修正する必要があった」(大榎監督)という部分(プレビュー記事参照)。その分、高さでの不利が生じ、セットプレーでの不安はあったが、それよりも守備ラインの統率を優先した形だった。
一方、徳島のほうは、清水から期限付き移籍中の村松大輔が契約条項により出場できず、代わりに那須川将大が3バックの左に入った他は前節と同じ。注目の新外国籍選手、アドリアーノとエステバンはベンチからのスタートとなった。
立ち上がりは、雨の影響で比較的過ごしやすくなったコンディションの中、両チームとも集中して自分たちがやろうとするサッカーを展開。清水のほうは、徳島の1トップ・高崎寛之に向けた長いボールとそのセカンドボールに細心の注意を払いながら、攻撃ではこれまでよりもグラウンダーの縦パスを増やし、ノヴァコヴィッチや大前元紀が前で起点を作れた時は、周囲の選手が近い距離でサポートしたり、彼らを追い越していったりとリスクを恐れない攻撃を仕掛けていった。
その様子を見ていて興味深かったのは、そこからのワンツーやスルーパスの成功率が以前よりも高くなっていること。ミスを恐れずに思い切ってプレーしたほうが、ミスをしないように慎重にプレーする場合よりもかえってミスが少なくなる。それはどのスポーツでもよく見られる現象だが、清水にも明らかにその効果が表われていた。
それに対して徳島のほうは、「スペースを埋めた形からアプローチしたりプレスバックしたりという守備はうまくできていた」(小林伸二監督)という言葉通り、清水にある程度ボールを持たせながらも、危険なエリアではしっかりとスペースを消し、テンポの速い攻撃にも最後まで人がついていけていた。
ただ、攻撃ではビルドアップの過程でのミスが目立ち、高崎やトップ下のところでボールが収まる場面も少なく、なかなかチャンスは作れない。清水のほうは、徳島に比べればゴールに迫る場面が多かったが、最後のラストパスやシュートの精度はもうひとつ。両チームともある程度狙いとするサッカーはできていたが、どちらも足りないのは攻撃の精度という共通点があり、後半に入ってもなかなかスコアは動かなかった。
そんな流れを変えたのが、後半16分の村田和哉の投入だった。「前半は足下のボールが多くて、サイドに飛び出す動きがちょっと少なかったが、村田が入ってからは、そこを縦に狙う彼の良さが出た」(大榎監督)という変化があり、21分にはさっそく村田が右サイドの裏に飛び出して決定機を演出。そして後半24分には河井が左サイドの裏に飛び出し、その折り返しを左に流れた村田が受けて、1人外してから右足を一閃。このシュートが正確に右ポストぎりぎりに突き刺さり、清水が喉から手が出るほど欲しかった先制点を奪った。
村田にとっては今季初ゴールとなったこの1点は、チームにとってはホーム通算600点目。「アシストだけでなく自分でもゴールを決められる選手になりたい」と全体練習が終わった後に1人黙々とシュート練習を続けてきた村田。その成果が記念ゴールとして結実し、大榎監督に初勝利をもたらしたことも、チームの空気や競争意識という意味で大きなプラス効果を与えることだろう。
ただ、徳島のほうも、なんとか勝点1でも持ち帰りたいという気持ちが強く、後半11分にアドリアーノ、後半29分にエステバンを初出場させて清水ゴールに迫っていく。清水がチャンスを作りながらも追加点を決め入れない中、アディショナルタイムにはアドリアーノが持ち前のスピードを生かしたドリブルで決定機を作るなど、最後までどうなるかわからない緊張感のある戦いが続いたが、清水守備陣が集中力を切らすことなく守り切って1-0のままタイムアップ。清水にとっては大きなプレッシャーのかかる本当に難しい試合だったが、チーム全体とスタンドとの一体感で、記念すべき大榎監督の初勝利&ホーム通算200勝目をつかみ取った。
試合が始まる前の緊張感、村田のゴールが決まったときの爆発的な歓喜、終盤のハラハラ感、勝利が決まった瞬間の心底ホッとする安堵感と喜び。試合前に大榎監督は、元チームメイトである故・真田雅則氏や故・山田泰寛氏への想いも口にしていたが、古くからのサポーターにとってもさまざまな想いが詰まった中で得た、誰もが心から喜べる1勝。
ホーム200勝の記念Tシャツを着て“勝ちロコ”を踊る選手や大榎監督他のスタッフ、サポーターの姿は、「これがエスパルスを応援する醍醐味だよな」とあらためて思い出させてくれた。
以上
2014.08.10 Reported by 前島芳雄
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