開始3分、菊岡拓朗が左サイドから蹴ったクロスに前田俊介が頭で合わせて札幌が先制点を挙げる。一般的にカップ戦での番狂わせというのは、カテゴリーが上のチームがなかなか得点できず、嫌な雰囲気のまま時計の針が進むことで生まれることが多い。その意味で言えば、この早々の得点で基本的にはJ2の札幌が優位に試合を進めることがほぼ確実になったと言える。精神的にもかなり楽になったはずだ。
しかしながら、そこからの時間はtonan前橋サテライト(以下、前橋サ)の頑張りが目立った。中盤で厳しくプレスを仕掛けて精神的に優位に立ったはずの相手を脅かすと、奪ったボールは素早く2トップにぶつける。ナイジェリア人のジョセフと組んだ星野佑介は1回戦ではセンターバックとしてプレーしていた選手で、前線には身体能力の高い選手が並ぶ前橋サ。「攻撃に人数をかけられないと考え、前線の2人でなんとかゴールに行って欲しいと考え、ジョセフと星野を選択した」と渡辺智洋監督は説明する。関東リーグ2部のチームがJクラブと堂々と渡り合っていた。
なかでも光っていたのは背番号10の蔭山拓也のプレーぶりだ。右MFとしてプレーしたこの選手は、札幌の守備ブロックの、その隙間に巧みにポジションをとってボールを呼び込み、安定した技術を武器にパスを配球していた。テンポよくパスを受け渡すため、この選手がボールを持つ場面では札幌もなかなかボールを奪えず手を焼いていた。Jリーグでも十分に通用するレベルのアタッカーが躍動していたことも、しっかりと記しておきたい。
とはいえ、時間が経つにつれてやはり、Jクラブが底力を見せる。38分、ボックス内で前田からのパスを受けた工藤光輝がゴールネットを揺らすと、ここからは札幌が完全に主導権を握るようになる。
「前半から全力で飛ばしてましたので、最終的に後半へばってガス抜き状態になってしまった」と渡辺監督が振り返ったように、後半は前橋サが運動量を落としてしまったこともあるが、ハーフタイムで修正をした札幌が勢いで上回る。
「カバーの意識やマークの受け渡しなどがかなり修正された」と松本怜大。後半の札幌は最終ラインが高い位置をキープし、全体をコンパクトに保つようになる。これにより連動した守備が行えるようになるとともに、セカンドボールもしっかりと回収できる。ボールを奪うと素早く攻撃に転じ、数多くのチャンスを生み出す。66分、68分と立て続けに丁成勳が加点して勝負を決定づけると、83分にはCK後の展開から途中出場の薗田淳が豪快にヘディングで叩き込んで5点目をゲット。ほぼ危なげない試合運びで札幌が3回戦への進出を決めている。
「勝てばJ1と試合ができるので、それもモチベーションにして欲しい」と試合前に財前恵一監督が求めていた通り、札幌が順当に勝利してトーナメントを勝ち上がり。8月20日(水)に行われる3回戦では清水と対戦することが決まっている。この前橋サ戦の勢いそのままに、今度は順当な試合ではなく、番狂わせを起こす側になりたいところだ。
以上
2014.08.07 Reported by 斉藤宏則
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