「今日みなさんは、いい試合を見る機会に恵まれたのではないか」（マリヤン・プシュニク監督）
その言葉通り、立ち上がりからアグレッシブに仕掛け、ゴールを目指して走り続けた福岡の姿はレベルファイブスタジアムに足を運んだ観衆の心を掴んだ。両チームの順位が示すようにチームとしての総合力は湘南が上。湘南が８連勝、福岡は３連敗とチームの勢いにも差があった。しかし、臆することなく攻め、そして守った福岡の姿は、チャレンジャー精神にあふれる素晴らしいものだった。

そして、プシュニク監督の言葉は、福岡の試合ぶりだけを表した言葉ではない。首位をひた走る湘南が見せたパフォーマンスもまた見事だった。試合前の雷を伴う豪雨の影響で水を含むピッチは湘南の攻撃力を半減させたが、それでも要所を締めて福岡を無得点に抑え、後半に入ってから怒涛の攻撃を展開したパフォーマンスは、22勝１敗の実力を感じさせるには十分だった。

最初に主導権を握ったのは福岡だった。ポイントは中盤での球際の攻防。ボールを奪いに行く守備に最も強さを発揮する湘南に対し、そのストロングポイントに堂々と真っ向勝負を挑み、その争いを制した。「相手の３枚がボールを持った時や、ボランチにボールが入った時に、しっかりとプレスをかけて縦パスをカットしたり、ボール保持者に対して行くことが出来ていた」と話すのは中原秀人。出足の鋭さ、集散の速さ、そして１対１の強さと、すべての面で湘南を上回った。

押し込まれる湘南も最後の所では突破を許さない。「ボールを奪う守備と、ゴールを守る守備の判断というのは自分たちの中でしっかりと意思統一出来ている」と話すのは遠藤航。決して崩れない最後の壁は、福岡にチャンスの芽は与えても、それ以上のものは許さない。そして、30分が過ぎた辺りから徐々にリズムを刻み出し、31分、37分、38分と立て続けに決定機を演出する。しかし、ここはＧＫ神山竜一がスーパーセーブを連発。福岡も一歩も譲らない構えを見せる。

そして後半は湘南が攻める番。ファーストプレーで見せた高い位置で奪って素早くゴール前に迫るプレーは、まさに湘南の形。その勢いのままに主導権を握り、試合はハーフコートゲームの様相を呈していく。福岡も集中力を切らさずに粘り強く守る。しかし、時間の経過とともに湘南の運動量とスピードについていけない場面が増えていく。そして69分、中盤で走り回って守備を支えていた武田英二郎が２枚目のイエローカードを受けて退場処分に。過去３戦で勝負所を抑えきれずに敗れた記憶が蘇る。
だが、福岡は崩れない。「（武田）英二郎が２枚目のイエローカードをもらった後は、チーム全体の戦う意識が上がった」と振り返るのはプシュニク監督。むしろ、やることが明確になったことで福岡の守備に安定感が蘇る。前への圧力を増す湘南にゴール前に押し込まれるのは仕方のないこと。しかし、許した決定機ということでは、むしろ前半よりも少なかった。そして10人の劣勢ながらゴールを奪う姿勢も失わない。35分には相手の裏に抜け出した石津大介が、続く36分にはＣＫからイ グァンソンがゴールを狙う。しかし、石津のシュートはクロスバーを叩き、イ グァンソンのヘディングシュートはわずかにポストの右へ逸れた。その後も、両者激しい攻防が続く中、アディショナルタイムの３分が経過。ともに一歩も譲らない試合はスコアレスドローで幕を閉じた。

白熱した好ゲームだった。だが、選手たちの想いは少し違う。やれたという手応えと、勝ち切れなかったという悔しさ。試合後のミックスゾーンに現れた両チームの選手の表情には、相反する２つの想いが浮かび上がる。悪い試合ではなかった。それは両チームに共通する想いだろう。だがともに勝点３だけを目指して戦った試合。結果に納得する者は両チームを通じて１人もいない。
「勝ち切れなかったので納得はいっていない。次のアウェイで勝点３を取れるように切り替えてやっていくだけ」（福岡・堤俊輔）
「引き分けに終わって悔しい気持ちが自分に対してすごくある。もしまたチャンスをもらえたら、チームの勝利に貢献したい」（湘南・三竿雄斗）

この日、両チームの選手が見せたパフォーマンスと感じた想い。それらの本当の意味は次の試合結果によって決まる。


以上

2014.07.31 Reported by 中倉一志