「3連戦最初だったので、先制点が大事になるということで、相手に先制点を取られないように入りました」と守備への意識の高さを明かしたのは群馬・小柳達司。秋葉忠宏監督も試合後、「前半少し抑え気味に、選手たちも自分たちの判断で考えたなかで、90分トータルしてゲームをコントロールしたなと思います」と振り返った。たとえシュート2本であっても、結果、スコアレスで折り返すことになる前半は群馬にとって「ブランどおり」(小柳)。ただし、ミドルサードを抜け出し、アタッキングサードに入るプレーは危険値が高めだった。山形の警戒網をかいくぐり、左サイドバックの瀬川和樹が三角形のパスでサイドを破り、高い位置まで攻め上がった12分のプレーでは、スルーパスに青木孝太がペナルティボックスまで走り込んでいた。16分、ボールをカットした小柳が青木孝に預けてそのまま飛び出したプレーでは、青木孝のクロスにダニエル ロビーニョがシュートまで持ち込んでいる。34分には、ダニエル ロビーニョからのくさびをバイタルで受けた青木孝が切り返して左足でミドルシュート。回数こそ少なかったものの、山形の守備陣をバタつかせた。
その前半を、石崎信弘監督は「今日はホームでなんとしても勝たなければいけないというゲームなのに、前半のまったりとした、なかなかアグレッシブに戦えないサッカーをしたのは大変申し訳なかったと思います」と語り、後半に喫した2失点以上に問題視した。「ディフェンスラインは前半は結構、暑さのなかでも相手を潰してパスをつないで、リズムよくやれてるようなイメージではありました」と語るのはセンターバックの當間建文。的確な押し上げから奪ったあと近くのサポートに預け、しっかりヘッドアップした状態で縦へ送る一連の流れは、これまでのプレーから一段階踏んだ立ち上がりに見えた。
しかし問題はそこから先、アタッキングサードに入ってからの攻撃にあった。3分、ディエゴのサイドチェンジで敵陣に入った左サイドバック・石川竜也が縦の広いスペースにボールを送った際、そこを使おうとするランニングがなく、ディエゴ、中島裕希、伊東俊の3人が中央でステイする動きがかぶっていた。浮き球を中島がヘッドで落とし、秋葉が左の石川にさばいた14分のプレーでは、ボランチの松岡亮輔を含めて5人がペナルティボックス近辺に詰めていたが、ファーサイドへ送られたクロスは誰にも合うことなくゴールラインを割った。ここはクロスそのものの質の部分の問題もあったが、スピードアップして一気にフィニッシュに持ち込むのか、もう一つ崩しを入れるのか。点と点がつながるシーンは少なかった。
21分、右サイドバック・山田拓巳がゴールライン手前から上げたクロスにニアの秋葉がヘッドで触り、ファーへ抜けたボールを拾ったディエゴが松岡のシュートを引き出すなど噛み合うシーンもあったが、概ね受け手側の動き出しが少なく、動き出しても相手が容易に対応できるほどスピード感や迫力も希薄で、そこへ送るパスそのものの精度も高いとは言いがたかった。群馬の戦術により、センターバックにプレッシャーを受けないことで落ち着いて攻撃の組み立てはできたが、相手を守備で動かすというポゼッションの質でも群馬が上回っていた。
思うようにアクセルを踏み込めなかった山形も、あえて抑え気味の45分間を過ごした群馬も、ハーフタイムをはさんでその重心をより前方へと傾け、試合の様相は一変する。當間からのパスに促されて高い位置に上がったイ ジュヨンがそのままハーフウェイラインを越えて前方へフィードする場面や、高い位置からプレスをかけに来る群馬の勢いを逆手に取るパスワークで山形は縦へボールを運ぶシーンを増やし、群馬も積極的な縦パスでバイタルで起点をつくり、それが宮崎泰右の横方向へのドリブルとシュートを狙うシーンにもつながっていた。
試合が加速するなかで先制点を挙げたのは55分、アウェイの群馬だった。左サイド深い位置でこぼれ球を拾ったダニエル ロビーニョが抜群のキープ力を生かして味方につなぎ、いったんキーパーの富居大樹まで下げられたボールは右タッチラインで粘り強くキープした小柳からボランチ2人を経由して再び左サイドへ。そこには周りに遮るものがない状態で瀬川が待っていた。「3人ともいい動き出しがあったので、あとは一番入りそうだなというところに上げました」(瀬川)とクロスに飛び込んだのは3人。対応する山形の守備は2人だった。ライナー性のクロスはファーサイドの宮崎が胸トラップで折り返し、ゴールライン内で押し込もうとする青木孝と防ごうと飛び出したGK山岸範宏とで混戦状態となったが、こぼれ球を押し込んだのは永田亮太。「(宮崎)泰右と(青木)孝太が決めればよかったんですけど(笑)。ラッキーゴールでした」と古巣相手のゴールを振り返った。この場面を山形・石崎監督は「前がかりで前からプレッシャーかけて逆に(サイドに)振られてクロスを上げられて失点というところで、まずそこでボールを奪いきる、プレッシャーをかけたところでボールを奪いきるというところと、そこにチャレンジに行っているときに逆サイドのバランスのところをしっかり考えていかなければいけない」と語ったが、それは前回、正田スタのアディショナルタイムで喫した同点ゴールを思い起こさせるパターンだった。
1点を追う山形も、伊東が受けたファウルで獲得したフリーキックから中島のヘディングが決まり、わずか4分で同点に追いつくと、伊東に代わり比嘉厚平を投入した70分から攻撃をさらに加速し、2度の決定機を迎える。富居のパスミスを見逃さず比嘉が奪い、中島のグラウンダーのクロスに合わせたのはディエゴ。しかし、ここはシュートが大きく浮いた。その直後にも、秋葉のくさびを受けた中島から左に展開し、比嘉のグラウンダーのクロスをディエゴがシュート。富居が弾いたボールを松岡が打ち返したが、このシュートも思いきり宙に浮いた。
「あそこで点が決まっていればおそらく逆の展開になっていたと思います」と認める大きなピンチに、秋葉監督は青木孝から小林竜樹へ、加藤弘堅から黄誠秀へと残る2枚のカードを切ったが、その直後の77分、流れを断ち切ってあまりある値千金のゴールを挙げたのは、最初の交代でピッチに入ったエデルだった。押し込んだ状態でくさびとリターンを繰り返しながら、最後は右に持ち出し、思いきり右足を振った。DFに当たってコースが変わったこともあり、GK山岸も対応しきれなかった。これが決勝点となり、公式戦3試合連続無得点だった群馬が2得点で勝利し、山形が今季初の連敗を喫した。
「最後ゴール前で相手を上回る何かを見せない限りゴールは生まれない。それがアイディアなのか、テクニックなのか、クオリティなのか、閃きなのか、冷静さなのか、執念なのか、泥臭さ、パワーなのか、何でもいいですけど相手よりも上回るものがなければゴールすることができないという話をずっとしていた」。この秋葉監督の信念がこの試合では実った。さらに、ボールを動かすこと、終盤も集中してプレーすることなど、群馬が当面の課題をクリアして得たこの勝利の意味は大きい。
一方、ホーム連戦で連敗を喫し、いずれも複数失点。さらに遡ればホームゲームでの敗戦は3試合連続になる山形にとって、不安を抱えながらの3連戦スタートとなった。長いシーズンのなかで、どのクラブも好不調の波を避けられないのだとすれば、山形が今いるのは下弦の波の中。それがすぐに上向くのか、さらに奥底に吸い込まれていくか。すべては今後に懸かっている。「これでネガティブになるんじゃなくて、チームが前進するためにとにかく自分たちでこの流れを止めるしかないし、負の空気を結果で取っ払うしかない」。山岸が語ったのは、唯一の解決方法だ。
以上
2014.07.27 Reported by 佐藤円
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