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【J1:第16節 広島 vs 柏】レポート:苦境を跳ね返した練習の成果。広島、強烈な5得点で柏との打ち合いを制す(14.07.24)

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練習は嘘をつかない。
アスリートたちはみな、そういう言葉を吐く。才能というゴツゴツとした原石は練習で磨き上げてこそ、美しい玉になる。当然の理屈だ。
ただ、それは「今日練習した=明日結果が出る」わけではない。一夜漬けは決して本当の学力にはつながらないが、スポーツも同じである。長い間、地道に自分を鍛え抜き、結果が伴わなくても諦めずに続ける、そして続ける。そうやって初めて、結果が出るものだ。

たとえば高萩洋次郎である。柏木陽介や槙野智章がいなくなり、森崎浩司も病気との闘いが続いてプレースキッカーとなった時期、キッカーを任されたのが彼だった。広島ユースの頃から才能に満ちたパッサーで、動いているボールを操るのは「才能」というしかないほど流麗なのに、プレースキックはほとんど蹴っていなかった。実際当時は、直接FKでゴールを揺らすことは、練習でもほとんどできていなかった。
それでも、任された以上、結果を出したい。
高萩は蹴った。蹴り続けた。キャンプでもシーズン中でも、全体練習の後に居残り、何本も何十本も、右足を振り続けた。天才肌で「試合が続いた方がいい。練習しなくてすむから」と言っては周りを笑わせていた男が、誰もいなくなった練習場で1人ボールを置き、蹴り、そしてまたボールを置いて、蹴る。地味といえば、これ以上ないほどに、地味だ。だが、10番は迷いなく、何年も蹴り続けた。少しずつ、少しずつ、手応えを感じながら。

1−1で迎えた31分、左サイドでのFKだ。距離にして35m。直接ゴールを狙うのは難しい。10番の狙いはニアへ、スピードのあるボールを入れること。そこに石原直樹が飛び込んでくれることも期待した。
蹴った。石原が走る。DFがつく。合うか、クリアか。
だが、神様は唐突に、高萩洋次郎の努力に報償を与えることを決めた。石原もDFも間一髪で触れない。そこに詰めた佐藤寿人も触れない。菅野孝憲も、クリアできない。逆転。
決して「ゴールを決める」と決意して、蹴ったボールではなかった。「(4月16日に生まれた初めての)娘に捧げるゴール?いやそれは、もっときれいな得点の時に、書いてください」と試合後に照れたように、偶然も重なっての得点ではあった。だが、高萩が練習で磨いたプレースキックで狙い通りのボールを蹴らなければ、決してこの逆転ゴールは生まれなかったのだ。

61分、再び高萩は魅せる。今度は真骨頂である「パス」だ。
2−2になり、柏にペースを握られた広島だったが、高萩は虎視眈々と狙っていた。左サイドでボールを持った10番に柏の守備陣が襲いかかる。キム チャンスと鈴木大輔が2人で挟み込み、ボールを奪いにかかる。傍目には厳しい。だが。
「相手がボールをとれると思った時が、チャンス」
鈴木が奪いにいく。右足を出す。高萩はここを狙っていた。ミリ単位の誤差も許さない高精度スルーパスは、柏好文が走る先にピタリ。工藤壮人のタックルをかわしたサイドアタッカーは、そのままゴール前まで持ち込み、狙い澄ましたシュートで勝ち越し弾をゲットする。「3点目を失ったことで、我々はバランスを失った」とネルシーニョ監督が嘆いた美しすぎるカウンターは、高萩洋次郎の才能の証明である。

森崎和幸が「スコアが逆になってもおかしくなかった」と振り返ったらように、柏にも十分にチャンスはあった。レアンドロ・工藤壮人・狩野健太の3人が魅せるコンビネーションは美しく、そこに大谷秀和や茨田陽生が絡む攻撃は秀逸。特に大谷の攻撃参加は破壊的で、55分に決めた狩野の同点弾は、彼が一気にボックス内深くまで飛び込んで入れたクロスの賜物だ。この流麗さはレアンドロ ドミンゲスが名古屋に去った後の太陽王が築く新しい時代を告げるもの。個人技の重要性ばかりが叫ばれるワールドカップ後のサッカーシーンだが、やはり組織と個が融合してこそ面白いという事実を再認識させてくれた。
ただ、柏のマンツーマン守備を塩谷司の決然たるドリブルから佐藤寿人が打開して以降、守備がどうにも落ち着かない。特にサイドはほぼ完敗に近く、広島に支配権を渡してしまっての5失点。攻撃の美しさが目を引いただけに、サッカーというスポーツのバランス感覚がいかに難しいか、改めて見せつけられた。

柏好文、皆川佑介、森崎浩司。後半の3得点をあげた彼らは全て、キャンプから続く練習で結果を出し続けていた選手たち。決して広島らしいリズムで試合を支配したわけでもなくミスも多かったが、それでも「続けてきた選手たち」が苦境に立ったチームを快勝へと導いた。

練習は嘘をつかない。
その言葉を何度も何度も、口に出して噛みしめたい。そんな真夏のゴール祭りだった。

以上

2014.07.24 Reported by 中野和也
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