延長戦が終わった瞬間、ソニー仙台の選手が4人、5人とピッチに崩れ落ち、大の字になっていた。死力を尽くしてゴールを守り倒したことを表す光景からは、とてもPK戦を戦い抜く力が残っているようには見えなかった。しかし、その後、歓喜に沸いたのはソニー仙台のゴール裏。選手全員が手を繋いで声援に応えると大きな拍手がこだました。
昨季はオーソドックスな[4-4-2]の布陣だったソニー仙台だが、今年は守備の時は[5-4-1]、攻撃時には[3-4-3]となる可変システムを採用していた。一見すると5バックだが、攻めるときにはの両サイドのウイングバックが高い位置を取る、堅い守備と攻撃的な姿勢を両立させる組織が整備されていた。
対する鹿島は、昌子源を欠いたものの、中断前のリーグ戦とほぼ同様の布陣。しかし、その並びは見慣れないものだった。小笠原満男を中盤の底に置く[4-1-4-1]。9日の練習で久々に試した布陣をぶっつけ本番で採用してきたのである。
ところがこれが機能しない。選手は[4-1-4-1]に並んでいるが、誰がどの相手にプレッシャーをかけるのかハッキリしないため、相手のミスでボールを奪うことはできても、自ら能動的にうばうことができない。ボールは鹿島が支配していたが攻撃はすべて単発で終わっており、流れが掴めないまま時計の針は進んでいった。
すると23分、ソニー仙台の細見諒がJリーグでもなかなかお目にかかれないほどの見事なFKを直接ゴールに突き刺す。この得点でソニー仙台が一気に流れを掴み、28分にはDFラインの裏に抜け出した田中豪紀が追加点。あっという間に2点のリードを奪った。
まさかの2失点に、鹿島の選手たちの闘争心もさすがに燃え上がる。一列前で守備をしていた柴崎岳をいつもの位置に戻し、小笠原とダブルボランチを組む通常の布陣に組み直すと、33分にはスルーパスに抜け出したダヴィがゴールを決め1点差。続く36分にはカイオのクロスがそのままゴールに吸い込まれ、短い時間で同点に追いつく。
「ひとつポイントは2点目を取られてから前半の終了までだったと思います。あそこで間違いなく流れは鹿島さんでしたし、あそこで3点目を与えていればこういう結果にはなっていなかったと思います」
ソニー仙台の石川雅人監督が振り返ったように、ここで失点を食い止めたことが大きかった。ハーフタイムには気持ちを入れ替え、0-0からの仕切り直しという気持ちでソニー仙台の選手たちはピッチに立つ。
鹿島も逆転を狙い、55分に中村充孝、63分に赤崎秀平、81分に野沢拓也と攻撃的ポジションの選手を次々と送り込み得点をうかがうが、相手のゴールを割ることができない。結局、延長戦でも相手を崩し切れずPK戦にまでもつれてしまった。
そのPK戦、最初のキッカーである小笠原がきっちり決め曽ヶ端が阻止した時点で、勝利を確信した人も多かったはずだ。しかし、ホッと胸をなで下ろしたのも束の間、二人目の野沢がセーブされたあたりから雲行きが怪しくなる。ソニー仙台の二人目がバーに当ててしまいリードは守ったものの、三人目の柴崎のキックはポストに弾かれ、ソニー仙台が同点に追いつく。さらに四人目の中村がバーに当ててリードを奪われると、5人目の山本脩斗が大きく外してしまい、じつに20大会ぶりとなる天皇杯初戦敗退が決定してしまった。
大きなブーイングに包まれたスタジアム。試合後の会見で1週間後に控えるJリーグ開幕についてコメントを求められたセレーゾ監督は「120分以上戦って、いまどうしようと言われても急には難しい」と力が無かった。しかし、「人生は常にシンプルなことであり、やるべきことをしっかりやり続けることが大切です。僕はやるべきことをしっかりやり続けたい」と続け、再起を誓っていた。
サッカーには落胆と失望もあれば、歓喜と希望もある。巨大な失意を受け止めることは辛い経験だが、それをバネにすることができれば驚くような成長に繋げることもできるはずだ。
「今日の負けからなにかを感じないといけない。今日の結果をしっかり消化しないといけない」
無言を貫く選手が多かったなかで、ベテランの青木剛はいま必要な姿勢を説いていた。敗戦のショックは大きく、リーグ戦での巻き返しは簡単なことではないだろう。しかし、試合は待ってくれない。
「鹿島の選手がすごく悔しそうだった。変な試合はできない」
勝利したソニー仙台の金子進は、鹿島に勝った意味を噛みしめて次戦に臨むと誓っていた。授業料は高く付いたが、ソニー仙台の選手が見せたひたむきな姿勢は、学ぶべきものを示唆していたはずだ。
以上
2014.07.13 Reported by 田中滋
J’s GOALニュース
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