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【第94回天皇杯 2回戦 川崎F vs YS横浜】レポート:運を味方につけた川崎Fが、きわどく勝利を手にする。攻撃への意識を持ち続けたYS横浜は、大金星を取り逃がす。(14.07.13)

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相手チームがガチガチの勝利至上主義者の監督に率いられ、それを良しとする集団だとしたら、川崎Fの後半アディショナルタイムの同点ゴールは生まれていなかったのではないか。そんな仮定が成り立つような試合だった。

ホームで戦う川崎Fは、土壇場にまで追い詰められていた。拙攻がY.S.C.C.横浜に勇気を与え、54分に喫した松田康佑の先制点が、YS横浜の勇気の根拠になり、自信につながっていた。

所属選手全員がプロ契約を結ぶ川崎Fとは違い、J3所属のYS横浜のプロ契約選手はわずかに4選手。先週日曜日に行われた天皇杯1回戦の翌日。勝利の余韻に浸る余裕もないまま、翌日の月曜日から出勤して仕事に励む選手もいたという。プロとアマチュアの選手が混在する環境の中、YS横浜には勇気と自信が必要だった。

技術的に川崎Fの選手とは違いのあるYS横浜は、だからこそ川崎Fのサッカーを研究していた。キャプテンの吉田明生は「同点にされるアディショナルタイムまではプラン通りでした」と試合を振り返る。全体をコンパクトに維持し、まずは前線から守備を開始。それで奪えなければコンパクトな陣形を保ちつつ、徐々にラインを自陣奥深くに下げていく。中を閉められた川崎Fの選手たちは、YS横浜の選手たちが作る守備ブロックの手前でパスを回すしかなかった。「横パスはOKでした」とチームの戦いを振り返る吉田の言葉通り、そのブロックの手前では川崎Fはボールを回せていた。ただ、森島康仁や安柄俊、金久保順などの前線の選手に縦パスが入ると、これがYS横浜にとっては守備のスイッチとなった。YS横浜の選手たちは狙いすましたかのように川崎Fの選手を複数で取り囲みボールを奪った。
結果的に川崎Fの攻撃は比較的手薄なサイドへと移動し、そこからのクロスが増える。しかし3バックの両脇にウィングバックの選手が降り、最終ラインを5枚で構成するYS横浜の守備陣は堅牢で、単純なクロスでは崩すのは難しかった。時間だけが経過した。

ACLの関係で延期されていたJ1第12節が15日に開催されることも含め、川崎Fのこの日の先発はチーム全体のコンディションを考慮したものとなっていた。この日、先発のピッチを踏んだメンバーが、相対的に見て中断前の21連戦を戦った選手たちとはコンビネーション面で難があったのは間違いない。風間八宏監督はそんな試合をテコ入れすべく、後半開始から安に変えて小林悠を投入する。足元の技術に一日の長がある小林によって川崎Fの縦方向への推進力は増したかに見えた。ただ、先制点はYS横浜に生まれる。54分に川崎Fの右サイドを突破され最後はゴール正面で松田に押し込まれた。
ボール支配率ばかり高まり、決定機を作れない川崎Fは、先制点を奪われた5分後に可児壮隆から大島僚太へと交代。さらに79分には、福森晃斗に代えて大久保嘉人を投入した。使えるカードを使った川崎Fは、小林、森島のヘディングシュートがことごとく枠を外れる不運もあり、同点ゴールを生み出せないでいた。

勝利目前の89分のこと。YS横浜は途中交代出場の友澤剛気が右サイドに広がる広大なスペースを使い、ボールを持ち出す場面があった。定石であればCKフラッグ付近でキープして時間を稼ぐのだろう。ただ、友澤の判断は違った。もう1点を狙い、仕掛けたのである。結果的に時間も稼げず、得点にもならなかったこのワンプレーに甘さを感じたのは事実だが、それはYS横浜を貫くポリシーでもあったようだ。

試合後の会見でこのプレーについて有馬賢二監督に尋ねた。有馬監督は「ゴールに向かう姿勢は持つように言っています。ただ、ああいう失い方をしてはいけない。仕掛けたとしてもCKで終わる。スローインで終わる。最後しっかりクローズ(試合を終わらせる)するためにそういう話はしています」。

時間稼ぎしても文句言われない状況であっても、果敢に攻める気持ちを持ち続ける。それを肯定する有馬監督のコンセプトが、印象に残った友澤のプレーに込められていた。もしかしたら、1点のリードでは怖いという心理が働いたのかもしれない。何故ならば、僅かな時間で得点できるポテンシャルを川崎Fの選手たちが持っていたからだ。

殊勲のゴールを決めた小宮山尊信の喜びは控えめだった。後半アディショナルタイムの同点ゴールである。もっと派手な喜びを見せてもいいと思ったが、小宮山は十字架を背負ってプレーしていた。小宮山は、YS横浜の先制ゴールに絡んでおり、それを気に病んでいたという。また、シュート自体も足にミートしたものではなかったとも言う。

「失点に絡んでいたので、最後、チャンスがきておもいっきり打ったら入りました。うまく当たらず、ダフリ気味だったんですが、それでずれてシュート回転になりました。蹴った時に入ると思いました。チームを救ったとはいえ、失点に絡んでたので、120分プレーさせてしまい、みんなには迷惑をかけてしまいました」。

運が味方した小宮山のゴールは、勝ちたい気持ちがプレーに現れたYS横浜の戦いの結果生まれたゴールでもあった。YS横浜の吉田は「同点ゴールの前から押し込まれていて、引きすぎたというところはありました。やられるべくしてやられました」との認識を持っていた。

小宮山がフリーになれたあのスペースが生まれたのは運である。シュートもミートしたものではなかった。ただ、そうした運の要素を確実に結果に結びつけたのは、揺るぎない自信と技術があったからだ。
同点に追いついた川崎Fにとって30分の延長戦は、逆転ゴールを生み出すのには十分な時間だった。決勝点が決まったのは、延長後半の117分。大久保からの楔の縦パスを小林が受け、これを森島が豪快に蹴りこんだものだった。YS横浜にこの1点を追いつく力は残されておらず、このまま試合は決着した。苦しみながら、川崎Fが3回戦へとコマを進めた。

本拠地から試合会場が近すぎて、この日のYS横浜の移動は電車と路線バスだったという。1回戦の時同様一部の選手は月曜日から、本職である仕事に向かうのだろう。藤川祐司のように、一度は現役を引退し教員生活を始めていたようなケースもある。彼ら、サッカーへの情熱だけでプレーする選手たちにとって、川崎Fを追い詰めたこの試合は自信になるはず。そして戦いの引き出しを増やし、これからのサッカー人生の参考にするはずだ。

以上

2014.07.13 Reported by 江藤高志
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