皆川佑介vs大武峻。
試合の趨勢を握ったのは、やはりこの対決だった。
皆川はプロだが、まだ公式戦出場はＡＣＬでのわずか３分間のみ。大武はアマチュアだが、Ｊリーグ９試合出場という実績は広島のＦＷを大きく上回る。果たして試合の前半は、そのキャリアどおりの展開となった。
「大武に皆川選手へのマンマークは指示していない」と福岡大・乾寛真監督はコメントしたが、５バックを引いたＤＦラインの中央に大武が君臨するため、１トップの皆川とは自然にマッチアップ。常に身体を密着させて大型ＦＷの自由を奪い、決して前を向かせない。一方で巧みにラインをコントロールして皆川を取り残し、戦う術も奪った。皆川も何とか受ける位置を下げてポストプレーで起点になろうとしたが、大武に脅威は与えられない。
福岡大にとっては、理想的な形だった。守備のエースが相手のＣＦを抑え、攻撃では前からのプレスが機能して公式戦初出場のビョン・ジュンボンのミスを誘ってＰＫで先制する。茶島雄介・丸谷拓也の若き広島の両ボランチも福岡大のハイプレスの前にボールを前に運べない。ペースは、大学生が握った。
　22分、ベテラン・森崎浩司は裏に一気に飛び出して千葉和彦のロングフィードを誘引し、野津田岳人の同点弾をアシストして同点。試合の流れを読んだベテランの活躍で落ち着きを取り戻した広島は茶島がボールを運べるようになったこともあり、主導権をようやく奪い返した。だが43分、水本裕貴の縦パスを皆川のバックパスが福岡大のエース・山崎凌吾にそのままわたしてしまう。失点に絡んだルーキーは「アタマが真っ白になった」。周囲からは「大丈夫だ」と声がかかったが、平静ではいられない。
「何とかしなきゃ」挽回を心から願った皆川に、ビッグチャンスが訪れた。
前半アディショナルタイム、千葉の縦パスを受けに入った森崎浩は、ダイレクトヒールで裏へ流す。このアイディアに大武よりも先に、皆川が反応できた。キャンプでずっとコンビを組んでいた成果だ。前に走る。大武が追う。完全に裏をとった。守備のエース、思わず手がシャツに伸びる。倒れた。ファウル。扇谷健司主審、迷いなくレッドカード。得点機会阻止だ。
判定に違和感はないが、皆川対大武の戦いがこの瞬間に終わった寂しさも漂った。皆川が勝ったとは思わない。大武もまた屈辱感に満ちているだろう。日本サッカーの未来を担う若者同士の対決は、痛み分けに終わった。
守備のエースを失った福岡大は後半、185センチの高さを持つ田村友を最終ラインの中央に置いた。だが、「運動量も球際でも相手に上回られている」と森保一監督に指摘された広島の闘志を、さすがに10人では止めきれない。
53分、スローイン。森崎浩が落とし、パク・ヒョンジンと高瀬廉が１対１。だが実際、高瀬にとっては１対２だった。すぐ側に立ち、パスを受ける素振りを何度も見せて森崎浩に高瀬は激突。フリーになったパクの美しいクロスに飛び込んだ清水航平は、一瞬止まって相手のマークを振り払った上で、ダイビングヘッドを突き刺す元ＦＷらしいシュート。プロらしい狡猾さが若さを完全に凌駕した。
さらに64分、森崎浩のパスを受けたパクがまたも、プロのプライドをちりばめたクロスに塩谷司が突き刺し、広島がついに逆転。90分には、アタッキングサードで1タッチパスが4本続くビューティフル・コンビネーションから野津田が2点目。最後は皆川が豪快にシュートを突き刺して締めくくった。
福岡大の戦い方は徹底していた。5−3−2の3ラインはコンパクトで、広島のパスワークを封じるためにアグレッシブなプレスを何度も何度も繰り返した。攻撃では長いボールを効果的に使い、そこから何度かチャンスもつかんだ。10人になり、逆転された後も必死で食らいつき、疲れで動かなくなった足を気持ちで動かして、Ｊ1王者に挑んだ。「選手たちを誇りに思う」と乾監督は教え子をねぎらった言葉が胸を打つ。全力を出し切った福岡大に、広島サポーターからも温かい拍手と賛辞が贈られた。
若いメンバーで構成した広島は、「勝たないといけない」という重圧と公式戦の緊張感で身体が硬くなり、室蘭キャンプで見せた力を１００％発揮するには至らなかった。だが、森崎浩司や千葉和彦らベテランの力を借りながら、少しずつ若者らしい躍動感を取り戻してくれたことは収穫。考えてみれば、この試合でも圧巻のプレーを見せつけた塩谷司も、広島デビューはこの福山での天皇杯であり、過緊張から失点にも絡んでしまった経験を持つ。「ほろ苦いです」と視線を落とした皆川も、ＰＫを与えたビョンも、そして退場してしまった大武にしても、いつか「この屈辱からはいあがった」と言える日が来る。
男は悔し涙をこらえた回数だけ、成長するもの。若者がこの悔しさを糧として、大きな飛躍をとげることを期待したい。

以上

2014.07.13 Reported by 中野和也