広島にしてみれば「また福岡大か」であり、福岡大から見れば「やっぱり広島か」だろう。昨年の2回戦と同じカードが、場所も同じ福山・竹ヶ端運動公園陸上競技場で行われる。「偶然」とは時に、こんないたずらをしてみたくなるものなのか。
昨年は1−0で広島が勝利。スコアからすれば、福岡大の善戦である。だが試合後、乾真寛監督(福岡大)は「付け入るスキがない」と語った。シュート数は15対2。福岡大が広島を崩したシーンは皆無に等しく、ゴールの匂いを感じたのは田村友のミドルシュートくらい。徹底して勝負にこだわり、気を抜くことなく戦った広島の前に、福岡大は沈んだ。
ただ、今年は少し、様相が変わってくる。昨年はリーグ戦の合間での戦いで、広島は青山敏弘や西川周作(現浦和)、ファン ソッコなど代表選手を欠き、ミキッチも負傷していたものの、あとはベストメンバー。1週間に1試合というリズムの中で行われた試合であり、状態も悪くなかった。しかし今年はシーズン中断明けの試合であり、コンディション的に広島は100%ではない。しかも来週火曜日にJ1リーグ戦の対横浜FM戦が控えている。暑い時期の中2日という日程を考慮しても、ベテラン選手を先発から起用するには勇気がいる。
もう1つの側面としては、中断期の韓国遠征から室蘭キャンプにかけて、若手選手が大きく伸びた事実が存在する。ほぼ主力がそろったKリーグの慶南FCに1−1と引き分けたことで自信をつけた若者たちは、室蘭キャンプの練習試合でも結果を見せつけた。彼らが奏でるリズミカルでテンポの速い攻撃は3人目・4人目とボールに絡んでくる広島らしさが満載。攻守の切り替えも速く、創造性も豊かだ。札幌との練習試合でも、運動量で経験のある選手が揃った相手を圧倒。ウェスタンシドニー(オーストラリア)から移籍加入した小野伸二にも何もさせず、アグレッシブな攻撃から一気に逆転を果たした。
その若者たちの中でも注目株は、なんといってもFW皆川佑介だろう。186センチという恵まれた体躯を活かしたポストプレーと圧倒的な走りの量は、台頭してきた頃の巻誠一郎(熊本)を彷彿とさせる。また、キャンプでは単純にボールを落とすプレーだけでなく、ヒールで裏へ流したり自分で持ち込んだりと、アイディアにチャレンジする積極性も見せていた。
「3人目」を意識する森崎浩司や野津田岳人との相性もいい大型FWは、5月以降の練習試合で12試合17得点と脅威的な爆発を見せつけた。その力が果たして本物かどうか、その試金石となるのはやはり公式戦の舞台である。
一方、福岡大には大学屈指のDF・大武峻がいる。名古屋の強化指定選手として開幕スタメンに名前を連ね、リーグ戦9試合に出場。188センチ83キロという恵まれた体格を活かした強さだけでなく、しっかりとパスをつなぐことのできる技術もあわせ、西野?監督(名古屋)から高く評価されている逸材だ。
大武は今季、名古屋の一員として広島とリーグ戦で戦っている。結果は2−5で完敗。自らのパスミスから失点するなど、センターバックとしては屈辱的な結果に終わった。だからこそ、心に期する部分はあるはず。リーグ戦の出場を重ねたことでJ1のスピードに慣れ、「今度はやられない」という自信もあるはずだ。
その大武と皆川とは、昨年のユニバーシアードで日本が銅メダルに輝いた時のメンバー。共に先発での出場機会は多くなかったが練習でずっと一緒にやってきたこともあり、互いの特長は知り尽くしている。
「大武とはずっと一緒にやってきた相手だし、仲もいい。対人も強いしヘッドも高いし、本当にいいDFだけど、後輩の彼には絶対に負けたくないですね。自分が半年間、プロで積み重ねてきた自信を明日の試合にぶつけて、勝利に貢献したい。そして皆川という男を、サポーターの皆さんに認めていただきたいんです」
そのスケールの大きさとポテンシャルの高さを考えれば、皆川と大武の2人が4年後のワールドカップ日本代表のメンバーに選ばれても、決して不思議ではない。大武のほかにも、福岡大はJクラブの強化指定を受けている選手が3人(DF武田大は長崎、MF田村友は福岡、FW山崎凌吾は鳥栖)いるタレントの宝庫だし、広島も野津田岳人や川辺駿、宮原和也と年代別代表の主力となっている若者が揃っている。明日の広島対福岡大戦は、勝敗はもちろんのこと、「4年後」に向けての原石がぶつかりあう戦いという視点からも、実に興味深い一戦だ。
以上
2014.07.11 Reported by 中野和也
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