熱狂のさなかにある大会の裏側でもこんなに素晴らしい試合が行なわれているんだよと、そっと教えたくなるような、ぐっと胸を張りたくなるような、いっそ高らかに叫びたくなるような、湘南と磐田との前節の対戦はそんな好ゲームだった。「お互いにいいところを出し合って、きついなかでも楽しかった」たとえば菊池大介が振り返ったように、ともにスタイルを譲らない。ことに湘南の足は試合を通して攻守に止まらず、タイトなプレスから時に複数で囲い込み、奪っては縦に縦につけていく。反面、判断は柔軟で、熱く、そして冷静だった。
遠藤航の機転に菊池が素早く応えたリスタートから、岡田翔平が押し込み前半のうちに先制すると、後半間もないフェルジナンドの同点弾も素晴らしく。それでも揺るがぬ空気のなか、彼らは再び突き放す。貫くとはかくや、湘南は2−1で勝利した。
曹貴裁監督の試合後の言葉に想いが滲んでいた。
「足を止めずに最後まで相手ゴールに向かって行った彼らの勇気は監督としてすごく誇らしい」
「お互いフェアに相手ゴールを目指すプレーが多かったので気持ちよかったし、こういうゲームを続けることが選手を伸ばすことなのではないかとあらためて感じた」
「全力でやるなかにもいい意味での余力を選手たちに感じた。少し自立した感じがあった」
「たとえば6番は永木(亮太)なんだとか39番は武富なんだとか、選手の名前を分かってもらえるような試合が少しはできたんじゃないか。それが何よりうれしい」
「去年ここで戦ったときは何もできないまま90分が終わった」指揮官が引いた、0−4で敗れた昨季の第8節磐田戦は、選手の脳裏にも残っていた。
「J1で戦ったときよりもいいかたちで取れた」そう語ったのは武富孝介だ。「昨季はプレスに行っても外されまくったけど、このまえはみんなでしっかりハードワークして連動できた。球際も行けてたと思います」。あれから1年、チームの成長がピッチに映えた。
成長の足跡をさらに刻みたい湘南は今節、北九州をホームに迎える。シーズン序盤は複数失点で敗れるなど躓いた北九州だが、第7節にはホームで磐田を降し、以後、失点も0ないし1点に抑えている。前々節は松本を、前節は千葉を相手にいずれも1−0の勝利を収め、目下4位と上位戦線のなかでも抜け出しつつある。
前節の千葉戦では、相手に押し込まれ、セットプレーで冷やりとした場面もあったがこれを凌ぎ、終盤の井上翔太のゴールに繋げた。粘り強い守備を背景にゲームをつくり、攻めては原一樹や池元友樹ら経験と決定力を備えたFW陣が虎視眈々と狙う。今節も相手の攻撃を封じながら先にゴールを奪いたい。
北九州の粘り強い守備に対し、「判断と決断が大事」武富は言う。「自分で運ぶのかコンビネーションで崩すのか、どこで撃つのか。変化が必要だと思います」。菊池も「縦パスや裏への動きがキーになると思います。どれだけ回数を増やすかが大事」と語った。
湘南はウェリントンが出場停止となる。異なる特長が編む新たな色彩の見せどころだ。何より変わらぬ湘南らしさを今節も発揮し、勝点3に結びたい。
以上
2014.06.27 Reported by 隈元大吾
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