「あの時は相手の代表選手とか、テレビで見た選手に対して我々は向かっていくというプレーが全くできなかった」。
試合後、湘南・曹 貴裁監督は昨季の対戦を振り返った。プレビューにも記述したが、昨年4月に磐田とヤマハスタジアムで対戦し、0-4と大敗したゲームである。その試合で「なにもできないうちに90分間が終わった」(同監督)湘南は、約1年という期間を経て、同じスタジアムで大きく成長したことを証明してみせた。序盤からハイプレッシャーを仕掛け、磐田を牽制した。
だが、磐田も一歩も引かなかった。湘南のプレッシャーに晒されながらも、先にシュートを打ったのは磐田。試合開始直後にはポポがFKを直接狙い、5分には山崎亮平が惜しいヘディングシュートを放った。その後もお互いに相手の背後を狙い、そのセカンドボールを激しく競り合う展開が続いた。曹監督は「我々もいいところを出したし、僕が言うのもなんですが、ジュビロさんもいいところを出そうとしていて、お互いにやり合った試合になった」と語る。攻守の切り替え、球際の迫力、ゴールへの執念。両チームとも集中力が極めて高く、一瞬たりとも目を離せない好ゲームとなった。
緊迫感溢れる一戦は、非常に細かいプレーによってスコアが動くことになった。39分。敵陣右サイドの深い位置でFKを得たのは湘南。これを菊池大介が素早くリスタートすると、パスを受けた遠藤 航が右足でクロス。ニアサイドの岡田翔平が一瞬足を止めた磐田守備陣よりも先にボールへ反応し、ヘディングシュートを打った。一度は八田直樹に防がれたが、こぼれ球を岡田自ら右足で押し込み、湘南に先制点。「ここ3試合先発していてずっと点を取れていなかったので、悔しい思いをしていた」という背番号22の咆哮が、アウェイゴール裏を熱狂させた。
一方、首位・湘南との勝点差をこれ以上広げられるわけにはいかない磐田も意地を見せる。ハーフタイムにボールロストを連発していたボランチ・小林祐希を下げ、岡田 隆を投入。仕切り直して後半開始から反撃を仕掛け、一度は同点とした。53分。ポポの横パスを受けたフェルジナンドがミドルレンジから右足でシュート。敵将・曹監督も「スーパーシュート」と脱帽した超強烈なシュートが湘南ゴールに豪快に突き刺さり、1-1。ヤマハスタジアムのボルテージは最高潮に達した。
だが、「同点ゴールでこちらに流れを引き寄せられなかったことはチームとして力不足」と岡田 隆。湘南がその直後のセットプレーで粘り強く勝ち越しに成功した。60分。三竿雄斗のCKがゴール正面へ。ライナー性のボールがウェリントンと競り合った菅沼駿哉のオウンゴールを誘い、湘南に2点目をもたらした。結局、この得点が決勝点となった。
その後も一進一退の攻防が続き、試合終了間際の磐田のFKには八田直樹も攻撃に加わったが、湘南の守備に弾き返され、試合終了。湘南が上位対決を制した。曹監督は試合後、昨季からの成長をこう語っている。「言い方は悪いですが、全力でプレーすることは大事ですが、全力でやるとなるとたぶんやられるのがサッカー。全力でプレーしながらも冷静な判断もなくてはいけない。最後のFKを含めて選手からいい意味で余力を感じた」。磐田戦の勝利は99年以来。若き湘南の戦士たちが記録的な開幕ダッシュに続き、再び新たな歴史の1ページを作った。
対する磐田・駒野友一は「相手のプレッシャーを上回ることができない場面もあった」と唇をかみ締めた。首位・湘南の背中はさらに遠のくことになったが、それ以上にホームでの直接対決を落としたことは痛い。「悲観する必要はない」(フェルジナンド)という言葉が虚しく響いた。
以上
2014.06.22 Reported by 南間健治
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