東京Ｖを迎えた第14節、熊本は優位に進めながらも無得点に終わり、今季６度目の引き分け。残念ながら勝利の後の恒例のセレモニーとなっている“Come on Rosso”はできなかったが、また違ったところでスタジアムは１つになった。

試合後、育成型期限付き移籍が満了となるＧＫシュミット・ダニエルがスタンドに向けあいさつ。わずか１カ月の在籍ながら、サポーターからは大きな拍手と、そして急遽用意された寄せ書き（試合前にメッセージの書き込みを募ったもの）入りの横断幕が贈られた。

熊本への期限付き移籍が発表されたのは４月20日。それまでゴールマウスを守ってきた畑実と１年目の永井建成、２人のＧＫが負傷離脱したのを受けてのことだ。やむなく現役を退いて７年が経つ加藤竜二ＧＫコーチを選手登録して急場を凌いだチームだったが、第９節（４月26日）・長崎戦でいきなり先発に抜擢されてＪリーグデビュー。４試合続けて出場し、初勝利を手にすることはできなかったものの２試合（第10、11節）で完封とチームに貢献。無敗（４分）で熊本でのキャリアを終え、今日19日の福岡発の便で仙台に戻った。

金井大樹をはじめ、他のＧＫにとっても刺激になったダンの期限付き移籍。もちろん、プロ１年目の彼にとっても大きな経験になった。
「熊本で得たものはやっぱり経験。一番記憶に残っているのは長崎戦の失点ですね。あぁ、でも札幌戦の砂川さんのＦＫもシュートだとわかっていたし、前田選手のシュートも自分の高さなら止めないといけなかった。負けてはいないですけど、３つの失点はどれも止められたかなと思う。でも、これだけやれるんだということは仙台の首脳陣にもアピールできたと思うし、帰ったらもっと存在感を示したい」

加藤ＧＫコーチ曰く、その能力の高さは「代表入りも狙える」ほど。１９６cmというサイズはＤＦをはじめとしたチームメイトには安心感を、そして対戦相手には「いつもなら入るシュートが入らない」というプレッシャーを与える。加えて、サッカーを始めた頃はボランチだったというだけあって足元の技術も高い。キャッチしてからのパントキックや前方へのフィードの正確性は、十分攻撃の起点になりうる。「チームが志向するサッカーによるけど、西川さん（周作・浦和）みたいに繋ぎもできるＧＫになりたい」と話すのもうなずける。今後の目標は「26歳までに代表入りすること」だ。

「まだまだ行ってみたい場所もあったので、今度は旅行に来たいですね」と、熊本での１カ月は、あちこち出かけて自然や食べ物を楽しむには足りなかったかもしれないが、彼にとって、そしてチームと熊本のサポーターにとっても貴重な時間になった。いつか再会するには、彼は仙台でレギュラーの座を勝ち取ってＪ１に居続けること、そして熊本は１年でも早く上の舞台に上がること、そしてそのためにも現在置かれている状況を脱することが必要。

約束がまた１つ増えた。

以上

2014.05.19 Reported by 井芹貴志