月曜のナイトゲームとなった第13節・愛媛戦は、残念ながら0−1のスコアで敗れてしまう結果に。平日の夜に足を運んでくれたファンの声援に応えたかったが、叶わず。そうしたなか、札幌ドームのメインスタンドには「とても悔しいですね…」と漏らす懐かしい顔があった。2007年に在籍し、守備の要として活躍をしたブラジル人ブルーノ・クアドロスさん(37歳)だ。旅行で来日し、大阪や東京などを巡った後にかつてのホームタウンへと足を伸ばしたとのこと。「本当にすばらしいスタジアムですよね」と、かつて自らが沸かせた札幌ドームのスタンドを本当に懐かしそうに眺めていたのが印象的だった。試合翌日には練習場の宮の沢グラウンドにも遊びに来ていた。
札幌でプレーする前年はC大阪でプレーしていたのだが、日本以外でのキャリアを見るとブラジルの超名門フラメンゴのアカデミーからトップ昇格を果たし、そこからボタフォゴ、クルゼイロ、スポルチ(いずれもブラジル)、ガラタサライ(トルコ)などそうそうたるビッグクラブに在籍していた。ただ、そうした大物であることをつい忘れてしまいそうになるのは、この選手がものすごく腰が低く、必要以上に丁寧な日本語で積極的に周囲に話しかけていたからだろう。とても親近感があったし、久しぶりに再会してもそこはまったく変わっていなかった。変わったのは、現役時代は長髪だったヘアスタイルが今では短髪で渋くなったところくらいか(写真)。「あの頃は私も若かったからね」と笑う。年齢を経たら落ち着いた身なりにしようという発想は、ブラジル人にもあるようだ。
娘さんも大きくなっていた。札幌でプレーしていたシーズンの、それも試合当日に生まれたと記憶している。当時はベビーカーに乗せられている姿しか見たことがなかったが、7年の歳月を経て、彼女は宮の沢グラウンドの周辺を元気に闊歩していた。「あの子はこの土地で生まれたから、“道産子”なんだよ」と父親は感慨深そうな笑顔を見せていた。
さて、そんなブルーノさんだが、現在は選手生活を終えている。2012年シーズン途中にCAリネンセ(ブラジル)で現役を退くと、そのまま監督に就任し1シーズン半を指揮した。そう、すでに監督業を開始しているのだ。引退してそのままチームの監督になるというケースはなかなかあるものではない。やはりそれだけ人望のある選手だったということなのだろう。指導した中には、現在は湘南で活躍するウェリントン選手がいる。
そして「ブラジルにワールドカップを観に来るんだったら、私の家に遊びに来てください。ホテルの値段も高いかもしれないし、よかったら泊まってください。サンパウロの空港からも近いですよ」と筆者に声をかけてくれた。「なんてラッキーな話だ!」と思い、場所を細かく教えてもらって調べてみると、なんとサンパウロの空港から車で6時間ほどかかる場所ではないか…。「これはちょっと…『近い』とは言わないんじゃないか?」と問うと、「そんなことないよ、ちょっと急げば4時間くらいで着きますよ」とのこと。これが日本人とブラジル人との感覚の違いなのだろうか。日本人というか筆者がせっかち過ぎるのかもしれないが。あとから調べてみると、この区間には飛行機が就航しているほどの距離だったということも忘れずに記しておきたい。
とはいえ、7年前にブルーノさんを取材していたのがまるでつい最近のことのように感じたくらいなのだから、時間というのは本当に早く過ぎ去るものだとあらためて感じさせられる。そうやって考えると、6時間なんて人生のなかではホンの一瞬。あっと言う間なのかもしれない。
とまあ、何とか話をうまく収めようとしてみたが、やはり6時間かかる距離は遠いですよ。ご厚意で言ってもらったものに対して本気で指摘する筆者もどうかと思いますが。そもそも社交辞令かもしれないのに。
ただ、そうやってオープンに周囲と接してくれるブルーノさんのメンタリティーというのは、間違いなく在籍時にチームを支えていたように記憶している。2007年にキャプテンを務めていた芳賀博信さん(現・札幌アドバイザリースタッフ)は当時、得点時には誰よりも早く得点者に駆け寄って手荒く祝福していたが、それはブルーノさんに提案されたものだと話していた。
「ブルーノに言われたんですよ。『ハガ、ゴールが決まった時にはとにかくみんなで思い切り喜ぼう。それがチームに勢いを与えるし、サポーターとの一体感にもなるから』って。だから、どんなに遠い場所からでも自分が率先して喜びの輪を作るようにしていきました」
また、その年はダヴィ選手(現・鹿島)が来日した最初のシーズンで、「日本のサッカーに馴染むためには何をしなければいけないか。それをブルーノが日々、アドバイスしてくれるんです。試合の前日には自宅に呼んでくれて、一緒にお祈りもしてくれますし」と口にしていたことも思い出した。ダヴィ選手のその後の活躍については、改めて記すまでもないだろう。
冒頭で記した通り、ブルーノさんが観戦した試合は残念ながら敗れてしまい、なかなか勝ちきれない現状も重なってチームはサポーターからブーイングを浴びたりもした。その光景をスタンドから見ていたブルーノさんがどう思ったのかはわからない。でも、翌日に次のように話していた。
「札幌は粘り強いチームです。私がいたシーズンにも苦しい時期があったでしょ? でも、そこでみんな頑張れた。サポーターも応援してくれた。札幌は頑張れるチームです」
そう言ってブルーノさんは宮の沢グラウンドを後にした。髪は短くなったけど、2人目のお子さんを乗せたベビーカーを押す後ろ姿はあの頃と変わらなかった。筆者と年齢はほとんど違わないのに「やはり大物は頼もしさがあるなあ」と素直に感じたし、一般的に考えれば遠い距離かもしれないが、車で6時間かけてでも会いに行きたくなるような存在だ。そしてそれは言うまでもなく筆者に限らず、ブルーノさんを知る人ならば誰もが同じ心境だろう。
以上
2014.05.14 Reported by 斉藤宏則
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