湘南が止まらない。開幕から無傷の12連勝は、1993年に始まったJリーグ20年の歴史でも初めて(シーズン中は2000年札幌の14連勝、シーズンをまたいでは98年セカンドステージからの鹿島の16連勝がそれぞれ最長記録)のことらしい。これが果たしてどこまで伸びるか、というのが今やJリーグ全体の大きな話題になっているが、そうした外部の視線や注目を一切意識することなく、勝ち続けてなお「次の一戦」に照準を合わせ全力で挑む姿勢にこそ、今の湘南の強さがある。
前節は藤田征也のゴールで先制しながらカウンターから一時は追いつかれたが、永木亮太が直接フリーキックを決めすぐさま勝ち越して栃木を、また前々節は終盤まで厳しい展開を強いられたなか、熊本にも在籍した武富孝介が終盤に決勝点を挙げて水戸をくだした。直近の2試合こそ1点差の辛勝ではあるが、苦しい展開でもきっちり勝点3を取るしたたかさがついてきたことに、曹貴裁監督も手応えを感じているようだ。とにかく、12試合で34得点という数字が物語るとおり、波に乗った時の攻撃は迫力じゅうぶん。その最たる要因が、走力をベースに次々とボールを追い越していく前への推進力。それもただ闇雲に前に出るのではなく、受ける側はボールが来ることを、そしてボールホルダーはパスコースができることを信じて、それぞれの役割を全うする。加えて、いかなる局面でも各人が常にゴールを意識したプレーを選択し、結果として1試合平均で15本以上のシュートに結びつけているのも大きな強み。こうした個々の責任感の強さは守備面にも表れていて、攻撃時に十分なサポートができているぶん、ボールを奪われても高い位置からスムーズに守備へと切り替え、相手を囲い込むことができていると言える。
得点、シュート数、相手ペナルティエリアへの侵入回数など、数字の面で大きく凌駕する湘南に、では熊本はどう対するか。その答えは1つしかない。それは、ここまで12試合続けてきたことを、ひたすらピッチ上で表現すること。小野剛監督は言う。
「システムこそ違いますが、スタイルやフィロソフィで志向するところは非常に近いチームだと思ってます。守備についても、ゴールを守るのではなくボールを奪いに行く。それで勝ってきているし、勝つだけのことをやっている。我々にとっては、ここまでやってきたことを発揮できる、そしてチームとして“もう1歩”成長する上で、湘南は最高の相手だと思いますね」
熊本の4-2-3-1と湘南の3-4-3の噛み合わせから、ピッチではおのずとミスマッチが生じるが、果たしてその中でどこにスペースを見つけてボールを運び、相手を動かすか。小野監督が常々話しているように、相手の人数が多い局面があれば必ずその裏返しとして薄いスペースが生まれる。相手が3バックであることを踏まえれば、まずはその両サイドで起点を作ることが狙いの1つになるが、ゲームの中で刻々と変わる状況をとらえて的確な判断ができるかが、この一戦では問われる。湘南の最終ライン3枚の両サイド、ここまで4得点の遠藤航と1得点4アシストの三竿雄斗も積極的に前に絡んでくるとなれば、押し込まれている時こそ熊本にとって大きなチャンス。「1つ外せればビッグチャンスになる。単純にクリアするのか、そこからつないで裏を取ってカウンターに持ち込むか、そこの判断も共有したい」と矢野大輔。とくに守備から攻撃へ切り替える場面では、共通のイメージが不可欠。中途半端なボールロストからカウンターを受けないためにも、きっちりフィニッシュまで持ち込むことも意識したい。守備においては、「湧いてくるような攻撃」(園田拓也)の勢いを削ぐべく、中盤からのプレスバックも含めてスペースをしっかりと埋め、自由を与えないことも重要。合わせてボールへのプレッシングも怠りなく遂行し、相手のリズムと勝負パスを断ち切らなくてはならない。
いずれにしても、球際の1対1やセカンドボールへの反応、切り替えと最後まで走り抜く力、そうした部分で対等に渡り合うのが大前提だ。その点、9節の長崎戦から続いたハードな日程の4連戦でも、「水戸戦以外は最後まで皆で点を取る姿勢を出せたし、前節は最後の笛が鳴るまで攻めきることができた」(園田)ことが、小さくない自信になっているのは確か。湘南が連勝を意識していないのと同じように、気負わず、臆することなく自分たちのプレーを表現し、ゲームそのものを楽しめるかどうかも熊本にとっては大きなポイントになろう。
お互いにセットプレーを得意としていることも含め、見どころの多い一戦。ハードワークし合う、質の高いゲームになることを期待したい。
以上
2014.05.10 Reported by 井芹貴志
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