「改めてGKというポジションは難しいなと思わされる試合になりました」数メートル先で、多くの報道陣に囲まれ、決勝点について笑顔で語る磐田・阿部吉朗の姿を、瞬きもせずに見つめながら無表情で語ったGK佐藤優也の言葉が、実に印象に残った。
後半8分、先制失点の絶体絶命のピンチ、前田遼一のPKを、超ファインセーブで防いだ。そのプレーが、確実にチームに流れをもたらした。0−0のまま一進一退が続いた後半42分までは、この試合の殊勲選手に選ばれて間違いなかったはずだ。だが、42分、FKから頭でこの試合唯一の得点を挙げた阿部に、ヒーローの座をもっていかれたのだった。「GKというポジションはああいうもの。流れを引き寄せてヒーローになれるのか、阿部選手みたいに、途中から出て1発を決めてヒーローになれるのか、顕著に出た試合だと思います。よく言いますが、89分良くても、残りの1分で点を取られたら、意味はなくなる。逆に言えば、89分消えてても、1分でゴールを決めればヒーローになる。それを強く思い知らされました」GKとして勝利のためにできる、最大限の好プレーで貢献したが、それが“勝利”に直結する“得点”にはならないもどかしさを、痛感していた。
「89分良くても、残りの1分で点を取られたら意味はない」という佐藤の言葉は、チームにも当てはまるだろう。ここまでの相手とは違い、ボール保持率を上回られる可能性の高い磐田である。まして、個のレベルも経験値も明らかに相手が上。となれば、「相手のボール回しが、後ろから回してくるときの安定感があって、前から取りに行ってひっくり返されるよりも、構えている方がやられないと思った」。通常は、センターライン付近まで上げている最終ラインを低めに設定し、「前半から真面目に守備ブロックを作って、奪って、少々大味なカウンターでしたが、それでも上手くチャンスを作る」(鈴木)という策を選び、相手の攻撃を上手く封じながら、得点機を伺った。三浦泰年監督も「我々のプラン通りゲームは進んでいった」と語っている。狙い通り進んでいった中で、GK佐藤の好セーブから勢いにのり、先制するビッグチャンスは訪れていた。
PK阻止からわずか5分後、平本一樹の絶好のクロスに前田直樹が見事に完全に抜け出し放った右足シュートは、惜しくもポストに阻まれたのだった。「誰がどう見ても、あの場面で自分が決めていれば勝てた試合でした」19歳の背番号11は自らを責め、「ゲームを左右するああいう場面で決めることができる選手にならなければいけない」この悔しさを教訓とすることを誓った。
また、その後も途中出場の菅嶋弘希が立て続けにゴール前に迫るなど、何度かチャンスは作った東京Vだったが、結局、磐田の守備を崩しきることができなかった。
一方で、プラン通りに進めながらも、不用意に与えてしまったFKからの一発に泣くという、これまでに何度も繰り返してきた悪癖からの失点に、またしても沈んだ。阿部のヘッドがループ気味にゴールに吸い込まれていった瞬間、ピッチにうずくまり「もーーー!!」と、心底、心底悔しそうに叫んだ田村直也主将の怒号が、最も防がなければならない形の失点だったことを物語っていたのではないだろうか。改めて、セットプレーからの守備に対する課題が露呈した。
それでも、J1クラスの攻撃陣に対し、「最後のセットプレー以外はやられていないと思いますし、流れの中でチャンスを与えなかった」と、鈴木はじめ何人かの選手も語っており、全体的な守備に関してはある程度の手応えを掴んだのも事実のようだ。9戦1勝2分6敗という現実は非常に厳しいが、待ったなしの4連戦である。ネガティブになりすぎず、収穫は収穫で自信に変え、ポジティブに目の前の一試合に挑んでいき、結果に結びつけたいところだ。
磐田は、主導権を握りながらも、粘り強くまもりを固めてきた相手に、攻めあぐねた。勝利したものの、前節のPK2得点に続き、今節も流れからのゴールではなかったことを、選手たちは課題として挙げていた。だが、シャムスカ監督は「現代サッカーのゴールの約半分がセットプレーから成り立っている。今後には必ずつながると思っています」と、プラスに捉えている。何よりも、「僕が『蹴りたい』って、譲ってもらっちゃったから・・・もう、蹴らせてもらえないと思う」苦笑するしかなかったエースのPK失敗を、最後の最後で帳消しにできたことは、チームとしても大きかったはずだ。
そして、もう1つの収穫は、前節の木下高彰に続き、この試合が初出場・初先発となった櫻内渚が加わった中で完封勝利を果たしたことだろう。「上下運動できますし、左サイドを活発にしてくれました」と、攻撃面での貢献度にも、指揮官は及第点を与えていた。若手の台頭を含め、磐田にとっては3試合ぶりの勝利となる、価値ある白星となったに違いない。
古巣との初対戦となった小林祐希は、感慨深くこの試合を迎えていた。急遽決まった磐田への移籍だっただけに、東京Vサポーターの前で挨拶をする機会を持つことができなかった。試合終了のホイッスルを聞くと同時に涙が溢れていた。磐田サポーターの前でチームメイトたちと挨拶を済ませると、一人列から離れ、逆側の、東京Vサポーターの陣取るゴール裏へと歩いて行った。「勝ったら行こうと決めていました」深々と頭を下げた、2年前の背番号『10』に、東京Vサポーターはチャントを大合唱し、エールを送った。再度、頭を下げて謝意を表し別れを告げると、再び磐田サポーターの待つゴール前へ戻り、送られていた「コバヤシユウキ」コールのボリュームアップを求めるジェスチャーで扇動し、『ジュビロ磐田の小林祐希』を印象づけた。約1年半溜め込んだであろう、様々な思いに、小林なりの決着をつけられたようだ。
以上
2014.04.27 Reported by 上岡真里江
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