真っ向勝負。それがこの日の両チームのテーマ。勝敗の行方を左右するのは、相手に走り負けないことと、１対１の局面で負けないこと。両チームにとって譲れないポイントも同じだった。そして、真正面からぶつかり合う熱く、激しい戦いになるのではないかというのが大方の予想だった。しかし、ふたを開けてみれば、あらゆる面で長崎が圧倒。福岡は後半に２点を返したとは言え、サッカーをさせてもらえたのは後半開始から２点目を奪うまでの17分間。この日の試合は、ホームでありながら圧倒的な差を見せつけられたばかりか、完全に長崎の引き立て役に回った。福岡にとっては、悔しさを通り越して情けない試合。試合後の記者会見で、マリアンプシュニク監督は「今日のような試合をしてしまったことに関して、選手、チームを代表して私が謝罪したい」と頭を垂れた。

この日の福岡は、４−１−３−２の布陣。アンカーを務める中原秀人の前には５人のＦＷ登録の選手を並べた。後方の守備を最終ラインの４人と中原に任せ、前の５人は下がらずに高い位置で前を目指すのは宮崎キャンプ以降、熊本と戦った開幕戦まで志向していたスタイル。熊本戦の敗戦後、チームのバランスを取るために、中盤に守備的な選手を入れ、相手ボールの時はダブルボランチにして守備バランスを整えていたが、それをシーズン前に志向していたサッカーに戻した。しかも、２トップで臨んだのは今シーズンのリーグ戦では初めてのこと。その理由を、プシュニク監督は「根本的な部分は一貫性を持って変わるものではありませんが、戦術的な部分では、対戦相手が変われば、我々の戦い方にも変化がある」と試合前に話していたが、攻撃に出ることで長崎を封じる構えを見せていた。
しかし、結果として、布陣変更が裏目に出たことは否めない。スペースに向かって長い距離を走って２人、３人と飛び出してくる長崎に対するには、中盤の底を中原１人で守ることは無謀過ぎた。高い位置から押し込むことで長崎の前への推進力を封じ込める狙いがあったのだろうが、前線で相手に対して全くプレッシャーがかからないのでは、長崎に対して攻めてくださいと言っているようなものだった。10分の先制点を皮きりに３分間で３失点を喫したのも、38分、45分+3分に失ったゴールも、チームの混乱がもたらしたもの。福岡らしさを問う前に、福岡の前半はサッカーではなかった。

それにしても、長崎のプレー振りは見事だった。キックオフと同時に長崎が見せたのは攻め勝つという強い意志。１対１の局面では絶対に負けず、攻撃の起点ができるとスペースに向かって２人、３人と長い距離を駆け上がっていく。目の前の相手との対応に手を焼く福岡にとっては、さらに視界の外から、次から、次へとスペースに向かって走ってくる選手を捕まえることは容易ではない。福岡が混乱していなかったとしても、簡単に防げる攻撃ではなかった。福岡の布陣変更が長崎に走るスペースを与えてしまったこともあるが、そうでなくても、走る、１対１の局面で勝つという２つのポイントにおいて、福岡を圧倒した。前半の５得点は、ある意味で当然の結果だったと言える。チーム、福岡のファン、サポーター、そして福岡に関わる人たちにとっては受け入れがたいことだが、この日の結果は、現時点で、福岡と長崎の間に大きな差があることを認めざるを得ないものだった。
だからと言って下を向いていても何も始まらない。できなかったこと、やれなかったこと自体は恥ずかしいことではない。チームとしていいトレーニングをし、メンタル的にも万全な状態で臨んでいたのは間違いのないこと。戦う姿勢がなかったわけではない。大切なことは、長崎に圧倒されたという事実から逃げず、何故そうなったのかを真摯に受け止め、自分たちに足りなかったものを手に入れるべく、日々のトレーニングに臨むことだ。戦犯探しは意味がない。しかし、連帯責任という言葉に逃げてもいけない。１人、１人が客観的に自分を見つめ、それぞれが個の責任において自分がなすべきことをなすこと。それが何よりも大切なことだ。
「まずは次のアウェイ２連戦に勝利して、いい形でホームに帰ってきて、次のホームで行われる九州ダービーで、この負けは必ず取り返す」（城後寿）
そこに注力することこそが今の福岡がやらなければならないこと。次のホームゲームは２週間後。福岡に関わる全ての人たちが、レベルファイブスタジアムでの勝利を待っている。

以上

2014.04.14 Reported by 中倉一志