スポーツ一般もそうであるが、サッカーもまた心技体の全てが問われるスポーツであることを改めて教えられる試合となった。熊本は、アイデンティティである前線からのプレッシングを信じて愚直に遂行。その結果として、横浜FCからペースを奪い続けることに成功し、得点シーンを含めて狙い通りの勝利を収めた。
ともに前節悔しい敗戦を喫していたこともあり、試合は立ち上がりから両チームともに積極的に入っていく。横浜FCの選手からも「立ち上がりは悪くなかった」という言葉が聞かれたように、横浜FCも熊本のプレッシングをかわしながらクサビのパスを入れることができており、プレッシングを掛ける熊本と、ボールを動かしてそれをかわす横浜FCという特長がピッチに表れていた。しかし、20分を過ぎると、徐々に熊本のプレッシングが横浜FCのパスワークを寸断していく。その様子を、熊本・小野剛監督は「一回外されて、二回外されて追うのをやめたらリズムは向こうに行ってしまう。それで、泥臭く何回もやっていく、それでミスを誘っていくようなプレーというのはジャブのようになった」と振り返ったが、対照的に「なかなかうまくいかないところで、いらだちというか、メンタル面のコントロールが出来ていないというところが見られた」と横浜FC・山口素弘監督が語るように、プレーという技術の面で横浜FCを上回るだけでなく、心理的にも横浜FCの落ち着きを失わせる。象徴的なのは、29分に横浜FCのカウンターの場面でシュートを放とうとした黒津勝とブロックした篠原弘次郎が言い合いになった場面。当然、両者に警告が与えられる結果となったが、横浜FCの心理的不安定さが見えた場面だった。試合が動いたのはそのような心理的アヤが出てきた35分。片山奨典と養父雄仁のパス交換から、片山が入れたクロスに齊藤和樹が見事に飛び込んで冷静にゴールに流し込む。対する横浜FCも43分に小野瀬康介が決定機を得るが、キーパー正面にシュートしてしまう。前半は、熊本優位のまま0-1で終了する。
チームへの落ち着きを狙い、山口監督はハーフタイムに「シンプルにプレーすること。シンプルにボールを動かそう!シンプルにボールを奪おう!」と選手に伝えてピッチに送り出すが、後半も熊本のプレッシングに横浜FCが後手を踏む展開は続く。49分の寺田紳一の警告から83分の野上結貴の警告まで後半だけで5枚のイエローカードも受ける状況は、そのことの現れだった。80分には、橋本拳人が2度目の警告で退場すると、横浜FCは82分に小池純輝を投入するとともに、3バックにして一方的に攻め立てる。86分のパク ソンホのシュートとそのこぼれ球を狙った佐藤謙介のシュート、90分の佐藤のミドルシュートなど、10人で守備を固める熊本に対してゴールをこじ開けにかかる。最後は、セットプレーの場面で南雄太がゴール前に上がる積極性を見せるが、最終的にゴールは割れずに終了。後半もプレッシングの威力は衰えず、前半に出来上がった構図を保ち続けることに成功した熊本が、対横浜FCでは約3年ぶりの勝利を収めた。
勝利した熊本は、狙いとするサッカーで勝点3という結果を持ち帰ることができたという点で最高の勝利だったのではないだろうか。前線からのプレッシングというスタイルでペースを掴んだこと、そのペースのままに、機を見てゴールを鮮やかに奪った展開。小野監督はゴールシーンを振り返り、「やってきたことがとっさの中で、ひらめきの中で出てくる、そういった意味で意義深い、我々にとって貴重なゴール」と語ったが、この成功体験は今後のレベルアップのベースとなっていくだろう。
一方の横浜FCにとっては、監督、選手の両方から「もったいない試合」という言葉が聞かれたように、やりたいサッカーを消されたときのメンタル面でのコントロールに大きな課題が残った試合となった。南が「プレスに来られても蹴っては意味が無い。熊本のプレッシャーを剥がしながら隙を突くのがうちのコンセプト。それがうまくできなかった」と振り返るように、熊本が自らのスタイルを迷い無く出していったのと同様に、横浜FCも心理的に落ち着いて自らのスタイルをピッチ上に出すようになれるか。悪い時への対応という、チームとしての成熟が問われる試合となった。
両チーム合わせての直接FKが53本。そういう展開だからこそ、心技体の全てでコントロールできることが勝敗の分かれ目となった試合だった。
以上
2014.04.06 Reported by 松尾真一郎
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