大宮はリーグ戦でここまで2勝1分2敗と悪くない戦績を残しているが、内容で上回ったのは第4節の仙台戦だけで、それ以外の試合では多くの時間で相手に主導権を握られ、押し込まれる戦いを余儀なくされている。第5節までの総シュート数32に対し、被シュート数は67と2倍以上。シュート32本で11得点というのは、よくよく見れば恐ろしい数字で(ちなみに同じ総得点11の川崎の総シュート数は70本を数える)、セットプレーでの集中力であったり、終盤のパワープレーにおける粘りと迫力は評価されて然るべきだ。ただ、多くの時間で相手に主導権を渡し、終盤で相手の疲れに乗じて点をむしり取るようなサッカーでは、とても安定した戦いは望めない。
最大の問題は、やはり守備にある。実は無失点で終えた仙台戦でも、プレス自体は機能していたとは言い難い。前線からプレスのスイッチが入らないまま、ペナルティエリア近くまでやすやすとボールを運ばれ、引いた状態で耐えながら相手のミスを待つような守備になってしまっている。ボールを奪っても、自陣深くで相手の圧力を受けきったところからスタートするため、そこから良い攻撃につながらない。高い位置からプレスに来られるとビルドアップもままならず、前線は孤立してボールを収めることも難しく、攻撃の形が作れない。シュート数の少なさはそこに起因しているし、ボールを保持して攻める時間が短いために、ますます守備に追われる時間が長くなる悪循環が、今の大宮の状況だ。
水曜日に行われたヤマザキナビスコカップの浦和戦でも、1-2と接戦での敗戦に見えるが、シュート数では16対5と圧倒された。決定機は橋本晃司が直接FKを決めた得点シーンのみで、逆に浦和には「5点、6点取れてもおかしくない」(ペトロヴィッチ監督)ほどチャンスの山を作られた。
「もっと自分たちから仕掛ける守備ができないと」(菊地光将)と、選手たちのだれもが守備に危機感を抱いている。大熊 清監督も「もっとラインを押し上げて、守備の始まる位置を高くしていかなればならない」と、問題は認めている。ただ、一朝一夕に改善できる問題ではない上に試合の日程も詰まっていて戦術練習に時間も取れない状況で、応急処置としてはFWの一角に守備で貢献できる長谷川 悠の起用も考えられるだろう。
そして注目は、韓国の蔚山現代から獲得した増田誓志。コンディションは上がってきており、試合勘と、周囲との連携に不安は残るが、「苦しい中で縦パスを出せる力があるし、それに加えて遠くを見る力とキック力があるので、攻撃で幅を使える」と、待望していた中盤の底でビルドアップできるボランチに指揮官の期待は大きい。試合展開次第では増田の大宮デビューもありそうだ。
一方の神戸。ここまでリーグ戦の戦績は2勝2分1敗とまずますだが、気になるのは被シュート数の多さ。7失点は決して悪い数字ではないが、被シュート数75ということは1試合平均15本のシュートを浴びているということで、いまだ無失点試合がないのも頷ける。「前線に個の能力の高い選手をそろえたチーム」(大熊監督)であることは間違いないが、ややもするとその個の力に頼ったサッカーになってしまい、前後が分断してしまう。個の力で押し返すことはできるため、大宮のように押し込まれる時間が長いわけではないが、守備も個の力に頼るところが多く、押し込まれたときは簡単にシュートまで持ち込ませてしまう。実際、大宮よりも被シュート数は多いのだ。そこに「付け入る隙はある」と、大熊監督も見ている。
ただ、カップ戦のなかった神戸が1週間前に戦った相手も浦和だった。この試合で神戸は、前半こそ浦和に押し込まれて1点リードされたものの、後半は労を惜しまないハイプレスからのショートカウンターにより3点を奪って逆転勝ちした。マルキーニョスやペドロ ジュニオールら、ただでさえ個の能力の高い選手たちが攻守にハードワークしてくると脅威だし、それによって最高の結果を出して勢いに乗っているのは間違いない。
現在の両者のチーム状況を考えれば、神戸が大宮を押し込んで主導権を握る展開になると予想される。大宮としては「攻守の切り替えをさらに速くして数的優位を作り、粘り強く戦う」(大熊監督)ことで、神戸の隙を突いていきたい。ただ、カップ戦を休養した神戸は体力的なアドバンテージもあり、終盤の体力勝負に持ち込むような試合運びには限界がある。それにはやはり組織的にプレスを仕掛け、高い位置でボールを奪い、良い攻撃につなげることでボールを保持する時間も増やしていかなければならない。個の能力の高さを前面に押し出してくる神戸に対して、それを遂行できるか。大宮の今後の戦い方を占う一戦になりそうだ。
最期に、大宮サポーターにとって楽しみなのが河本裕之との再会だ。一昨年、例年になく厳しい残留争いに苦しむ最中に期限付き移籍でやって来て、終盤の11戦無敗に貢献して大宮を救ったセンターバックを、だれもが忘れていない。代わりに神戸がJ2に降格してしまったのは何とも皮肉だったが、昨年はその神戸のキャプテンとして1年でJ1に復帰させた。その彼が、この試合で2年ぶりにNACK5スタジアム大宮に帰ってくる。残念ながらケガで出遅れてベンチスタートが濃厚だが、選手紹介ではアウェイもホームもなく、スタンド全体が彼に拍手とコールを送るだろう。その光景を、今から楽しみにしている。
以上
2014.04.05 Reported by 芥川和久
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