提示された４分間のアディショナルタイムも残りは数10秒。ドローもやむなし。時間帯だけをみれば、そう思っても不思議はなかった。だが、福岡も、そして横浜FCも望むものは勝点３のみ。選手も、ファン、サポーターも、そして、この日レベルファイブスタジアムに足を運んだ全ての人たちが勝利だけを目指して戦っていた。最後の１秒まで勝利を求める。そんな緊迫した空気がスタジアムを包む。そして、記憶に刻まれるであろう劇的なゴールが生まれた。

ハーフウェイラインから福岡陣内に入ったところでのＦＫ。堤俊輔が横浜FCゴール前に送ったロングボールをイ グァンソンとドウグラスが競り合う。高さを制したのはイ グァンソン。そのボールが落ちたところに、ＤＦの間をスルスルとすり抜けて平井将生が現れた。振り向きざまに叩きつけるように右足を振り抜いたところで勝負あり。大きくバウンドしたボールがＧＫ南雄太の頭上を超えてゴールネットに吸い込まれた。
「体が重たかったので一発を狙っていた。足元がスリッピーだったということも、グァンソンが競ればほぼ勝てるし、その時にどこに走り込めばいいかも計算していた。それは長くＦＷをやって来た経験から来るもの。それが出たゴール」
そう話す平井の表情に点取り屋としての意地と自信が浮かんでいた。

立ち上がりの主導権争いの時間を経て、最初に主導権を握ったのは福岡。最終ラインでボールを回しながら隙を窺い、相手の間、間に顔を出す前線の選手にボールを付けてパスを回す。狙いどころは横浜FCの右ＳＢの後ろにあるスペース。何度も、何度もボールを送り込んではゴールへ迫る。そして14分には金森健志が、30分には石津大介が、それぞれ決定機を演出した。
だが横浜FCは慌てない。「持たせても怖くないところは持たせたというところ。狙いをもってプレッシャーをかけた」（山口素弘監督）と言う通り、ペナルティエリアの前までは侵入を許してもラストサードは崩させない。10分に小野瀬康介のシュートが右ポストを叩いた場面以外ではチャンスらしいチャンスは作れなかったが、何食わぬ顔で試合を進めるのは、前節まで負けていない自信があったからだろう。

後半は横浜FCが前に出る展開。前半はほとんど消えていた寺田紳一が高い位置でボールを触り出すとチーム全体のリズムが変わり、ジワジワと福岡を押し込んでいく。８分、14分、22分、39分と着実に決定機を刻んでいく攻撃にゴールの匂いが漂い出す。
しかし福岡も、ＧＫ神山竜一をはじめ、全員のハードワークでゴールを許さない。そして、ただ守っているばかりではなく、押し込まれる時間帯が増える中でも、持ち味である奪ってからの素早い攻撃で横浜FCゴールを目指す姿勢を失わない。
前後半を通して両チームに共通していたのは、互いにチャンスを作りながら、しかし最後の壁を突き破れない我慢比べのような戦いの中で、高い集中力を保ち続けていたこと。試合は、何かが少し変われば大きく動きだしそうな気配を漂わせながら、その何かを互いに許さない緊迫した空気の中で90分間を過ごした。

そして生まれた冒頭のシーン。中原秀人は次のように振り返る。
「やるべきことをやっていれば、結果として、ああいうことになる可能性が高くなる。しっかりと自信を持ってプレーすることが結果につながるということを改めて感じた」
昨シーズンは何度となく終了間際に失点を重ねた。我慢比べの展開で先にしびれを切らすのが福岡だった。しかし、今シーズンはそのイメージを払拭。膠着状態を粘りきる力が見えて来た。その要因を選手たちは「１人、１人が自分の役割を理解している」と口にする。その姿を「今までやって来たことが、少しずつ結果に表れてきている」と評するマリヤン・プシュニク監督。福岡は確実に成長を遂げている。

一方、「サッカーはそんなに甘いもんじゃないということが、よく分かった試合。そういう意味では、もしかしたら、それが勝点以上の収穫なのかなと思うし、そういう意味に取らないといけないし、それを繋げていかなければいけない」と試合を振り返ったのは山口監督。試合内容は互角だった。だがこれもサッカー。結果を受け入れ、悲観もせず、驕ることもなく、次なる成長の糧として繋いでいく。横浜FCもまた、その繰り返しの中で成長していく。

以上

2014.03.31 Reported by 中倉一志