近年の大宮にとって、仙台はまさに天敵だった。2010年の仙台のJ1再昇格以来、通算戦績は1勝1分6敗。昨年と一昨年にかけては4連敗しており、大宮が作った連続無敗のJ1リーグ記録は仙台戦後に始まり、仙台戦で幕を閉じている。大宮の選手たちに苦手意識とまでは言えないが、「やりやすい相手ではない」との印象があったのは確かだし、仙台が前節においてG大阪をシュート1本で完封したという事実も、この試合への緊張度を増すに十分だった。「我慢強くやれるかどうか。仙台は先制点を取ると後ろが固いから、0-0の時間帯を長くしてチャンスをねらう試合になると思っていた」と、渡邉大剛は言う。ところが蓋が開いてみると、仙台はまったくかつての仙台ではなかった。
仙台にとっては試合の入り方が最悪だった。開始1分、大宮はラドンチッチが競ったボールをズラタンが拾い、右サイドの家長昭博に展開。クロスにファーサイドの渡邉がボレーで合わせて先制する。さらに仙台はその直後にセンターバックの渡辺広大を負傷で失うアクシデント。ビハインドを追う立場でもあり、ボランチの鎌田次郎を本職である最終ラインに下げ、攻撃センスのある武井択也を投入する布陣を敷いた。その影響だろうか、昨年までの堅さが信じられないくらいに仙台の守備組織はルーズだった。「どこでディフェンスをスタートするかが、中でやっている選手たちではっきりせず、相手にスペースを与えてしまった」と、鎌田は唇を噛む。「仙台が思ったより前からガンガン(守備に)来なかった」(渡邉)ことで、大宮は後ろでゆっくりボールを持つことができたし、間延びした仙台の守備の間に、人もボールも自由に入ることができた。
特に大宮の標的となったのが、梁 勇基と二見宏志の左サイドだった。梁は守備の得意な選手ではないし、「二見は大卒一年目で経験が浅いのでそこを突いていこうと。今井は上下動ができるし、ズラタンやラドンチッチも右サイドに寄ることを意識した」(渡邉)、まさにその攻撃で前半終了間際に今井智基が最終ラインの裏に抜け出して追加点。後半に大宮が得たPKも、仙台の左サイド深くからペナルティエリアにドリブルで侵入した家長を二見が倒してのものであり、その直後の4点目で、渡邉の浮き球スルーパスを呼び込んで最終ラインの裏に走り込んだ家長のマーカーもまた二見だった。
ただし、スコアでは大宮の完勝だったが、シュート数では8対10、コーナーキックでは0対9で仙台が上回っており、横綱相撲だったわけではない。仙台の守備組織はルーズだったが、大宮のそれも負けず劣らずルーズであり、仙台も大宮の守備ブロックの間に人もボールも入っていけたし、さほど苦もなくサイドの深い位置までボールを運ぶことができた。しかし「ある程度サイドは運ばれても仕方がないから、最後は真ん中で厳しく行こう思っていた」(片岡洋介)という大宮の守備を、仙台は最後まで崩せなかった。大宮を防戦一方に押し込む時間帯もあったが、梁が「メンタルな部分で焦っているところがあった」と認めるように、時間を追ってパスの出し手と受け手のイメージがバラバラになっていった。得点の可能性を感じさせるのはクロスしかなかったが、そのクロスに正確性を欠き、良い場所に上がったクロスも菊地光将がことごとく競り勝ち、弾き返した。
グラハム アーノルド監督が試合後の会見で語ったように、ミッドウィークに行われたヤマザキナビスコカップの日程的不利が影響したのは確かだろう。鎌田は「みんな動きが重くて、局面が切り替わるときに反応が遅かった」と感じていたし、「仙台は(去年までのような)切り替えの激しさがなかった」という渡邉の証言もそれを裏付ける。切り替えの激しさ、ハードワークは仙台サッカーの前提であり、その前提が崩れては攻守に組織を機能させるのは難しい。また、ウイルソン、角田 誠、渡辺という、センターラインの攻守の要の3人を同時に欠いて戦わなければならなかった不運もある。
ただしカップ戦から2試合連続で0-4の敗戦。さらには前がかりになりながらここまで3試合7失点の大宮に完封を許したことは、日程の不利やケガ人の不運では片付けられないだろう。「前からの追い込みが良く、それによってインターセプトもできていた」(金澤 慎)と、大宮の守備組織がある程度は改善していたのは事実だが、仙台のパスミスに助けられた面もあり、劇的に向上していたわけではない。キャプテンの菊地も「今日の仙台だから(完封)できたのかもしれないし、(前節の)川崎Fみたいな相手だったらどうなっていたか分からない」と、率直な心情を語っている。これで仙台は4試合経過してわずか1得点。ハマったときの守備力はG大阪戦で証明しているが、いま切実に欲しいのは今季初勝利という結果のはず。そのためには得点力の向上が急務だ。
一方の大宮は2連勝となるホーム初勝利。大宮にとってはJ1ホーム通算50勝の節目を、今までホームで勝ったことのなかった苦手チームを相手に、スコア上は大勝で飾れたことで、チームとして自信と勢いが出てきそうだ。2試合連続の4得点に、「開幕から比べればゴール前に入る数とかアイディア、距離感というのが、非常に良くなってきている」と、大熊 清監督も顔をほころばせる。ただし前述の菊地や、「もう少し前線から制限をかけて、守備で主導権を握れるようにしたい」という渡邉のコメントにあるように、無失点とはいえ安定した守備ができていたわけではない。今年の大宮は、守備で後手を踏むとビルドアップもままならず、前線が孤立して簡単にボールを奪い返され、結果さらに押し込まれる悪癖がある。次節の相手は、昨年ヤマザキナビスコカップを制覇し、ACLでグループリーグを突破した柏。真価はそこで試される。
以上
2014.03.24 Reported by 芥川和久
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