2連勝中の群馬を全く寄せ付けず。3―0で完勝した栃木が、開幕からの無敗を堅持した。過去のダービー史を紐解いても、これほどまでに明暗がくっきり分かれた試合はなかったのではないだろうか。
大差の勝利の中心にいたのは、他でもない黄色の背番号9だった。66分の先制弾と、78分のダメ押し弾。2ゴールを決めた後、何度も何度も何度も左胸のエンブレムを叩いた。その様は、北関東の覇権は栃木が握る、とサポーターにアピールしているかのようだった。瀬沼優司の雄姿に、サポーターは県民であることの誇りをくすぐられ、言いようのない高揚感を感じたはずだ。
「負けられないし、強い気持ちを持って臨みたい」
誰よりもダービーに懸ける熱い思いを公言した男が、人一倍その舞台で躍動してみせた。
「そこで取れなかったのが、うちの弱さ。そこで取ったのが、栃木の良さ」
小林竜樹が指した「そこ」とは、後半の序盤から中盤の攻防だ。前節・京都戦の反省を活かし、立ち上がりから群馬を圧倒した栃木。ダービーの勝利に不可欠な要素、球際と競り合いで勝り、今季初先発の湯澤洋介がアグレッシブに仕掛けることで、次々にチャンスを創出した。
ところが、都合3度の決定機を逸したことで、次第に潮目は変化していくことになる。後半に入ると群馬に形勢を逆転されてしまう。47分、50分とピンチを招く。ここで失点していれば群馬がイニシアチブを握った可能性が高かったが、今季の栃木は危機に直面しても動じない図太さがある。体を投げ出し、コースを切った。最後の最後まで諦めない姿勢で難局を乗り切ると、66分に廣瀬浩二と瀬沼のホットラインから待望の先制点を得る。
これを口火に、ゴールラッシュが幕を開ける。76分には近藤祐介のFKから、大外にフリーで待ち構えていた大久保哲哉がヘディングシュート。続く78分には集中力の切れた群馬の緩慢な対応を見逃さずにCKに変化を付け、山形辰徳のクロスを瀬沼が頭で叩きつけてネットを揺らした。「そこ(苦しい時間を)耐えて、先制点、追加点と取ることができた。今までにない形」(山形)で試合を進めた栃木が、仇敵・群馬を一蹴した。
思わぬ大敗に群馬の秋葉忠宏監督は、「僕が最も嫌いな球際、競り合いなどで後手を踏んでいた。ボールを扱う以前に問題があった。ファイトする所で負けてしまってはゲームにならない」と、声を荒げた。前節、岡山を2-1で撃破した姿は影を潜め、群馬の覇気は薄く、それゆえに序盤から後手に回り、最終的に点差が開いてしまう原因を自ら作ったと言える。ダービーで負った傷は浅くないが、連敗しないためにも、「球際でファイトすることを植え付け、その上でテクニックがあることを強調したい。その順番を間違えないようにしないといけない」(秋葉監督)。リバウンドメンタリティが、次の富山戦では問われることになる。
今季初の北関東ダービーを完封で飾った栃木。これで4試合中3試合、相手をゼロに封じたことになる。“堅守・栃木”を支えているのは、守備陣の奮闘はもちろん、前線の頑張りだ。
「セヌ(瀬沼)が追ってくれるから、後ろが楽にプレーできているところはある」(近藤)
得点感覚だけではなく、献身的な姿勢も兼備した瀬沼がファーストディフェンダーとして執拗にプレスをかけ、それに相手が焦り、苦し紛れのボールを入れる。意図のないボールを、待ってましたとばかりに赤井秀行とドゥドゥが弾き、そのこぼれを中盤の選手達が拾い、攻撃に転じる。システムが突如、4―2―3―1から4―1―4―1に変わっても、アレルギー反応を起こさなかったのは、確たるベースがあるからだ。研磨してきた守備が、切り替えの速さが、どれだけ通用するのか。ホームに名門・磐田を迎え撃つ次節、栃木はその成熟度を測る。
以上
2014.03.23 Reported by 大塚秀毅
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