J1リーグ戦で首位を走る鹿島のトニーニョ・セレーゾ監督は試合後、F東京を手放しで賞賛した。
「相手の方がやるべきことをやって勝った。それは間違いないことだ。我々は眠りながら試合に入っていた。やっと目覚めたなと思ったときには0−2になっていた。相手の方がやるべきこと、普段積み重ねてきた練習を試合で表現した。そういう意味でも相手が上回っていた」
両指揮官は、対照的な先発メンバーを組んできた。F東京は、15日に行われたJ1第3節・神戸戦から8人の先発メンバーを入れ替えた。それに対し、鹿島はGK1人のみ。F東京のマッシモ・フィッカデンティ監督は「そのタイミングだった」と言い、ここまで出場機会の少なかった選手をピッチへと送り出した。そして、先発をほぼ入れ替えなかったトニーニョ・セレーゾ監督は、「若い選手を入れてチームづくりをしている段階。このメンバーで試合を重ねることでコンビネーションなどが理解し合える」とその意図を語った。
結果的に、メンバーを入れ替えたF東京が3−1で鹿島を破り、フィッカデンティ監督に軍配が挙がった。ただし、コンディションの差だけが試合結果に直結したわけではない。この日、ピッチに立った11人は、まさに適材適所に配置されており、そのユニットが機能したと言えるだろう。
前線を従来の3トップから「2トップ+トップ下」の形に変更した。ポストワークに優れた平山相太が攻撃の起点となり、トップ下に入った河野広貴はその周りでボールを引き出し続けた。中盤の野澤英之、羽生直剛は気の利いたプレーで攻守のつなぎ役として役割を果たし、米本拓司は攻守で持ち味を見せた。最終ラインでは、森重真人と吉本一謙が強さと高さでダヴィの自由を奪い、松田陸と太田宏介は機を見て攻め上がった。イタリア人指揮官による大胆なターンオーバー制の導入だったが、これが見事にはまった。
開始10分で大勢が決したと言ってもいいだろう。8分に、前線でこぼれ球を拾った米本からファーサイドに逃げるようにボールを呼び込んだ河野にボールがつながる。背番号「17」はボールを前に流し、並走する昌子源をグンと加速して置き去りにする。飛び込んできた相手GKの鼻先で足を出し、ゴールへと流し込んで先制点を挙げた。
さらに、その2分後には、またも河野が羽生、渡邉千真らとの連係で左サイドを抜け出す。敵陣深くまで切り裂くと、後を追ってきた左サイドバックにマイナスのボールをプレゼント。これを太田が左足で決めて点差を広げた。
ハーフタイムに指揮官から檄を飛ばされた鹿島は、本山雅志を投入して反撃を試みた。背番号「10」がエレガントなプレーで攻撃の起点となると、55分にカイオを入れて攻撃に力を注ぐ。だが、F東京は組織的な守りでそれを跳ね返し、逆に右サイドを駆け上がった松田のクロスに、途中出場の三田啓貴が頭で合わせて追いすがる鹿島を突き放した。鹿島は本山が得点を挙げて、2点差に戻したが、前半の2失点が響き、そのまま試合終了となった。
敗れた鹿島だが、本山の健在ぶりと、カイオの突破力とパンチのあるシュートは今後につながった。試合後、選手たちは口々にゲームの入り方を反省材料に挙げている。そうした課題の摘出も、ほぼ同じメンバーで臨んだからこそ、見えてきたモノだろう。
F東京は今季公式戦初勝利を飾った。河野は「全員の距離が近かったし、ポンポンとつながった。この並びは、かなり良いと思う。ニュウさん(羽生)が入ってチームが落ち着いたし、やっぱり気の利いたプレーをしてくれるからやりやすかった」と言葉にした。羽生の働きは確かに大きかった。細やかなポジショニングでチームを支え、本来の球離れの良いサッカーのアクセントとなっていた。それが組織だった守りとも上手く調和がとれ、攻守でバランスの良いサッカーをしてリーグ首位を走る鹿島を撃破した。
そのチーム最年長の羽生は「この結果はチームの刺激になったと思う。1つ勝つことで今後につながる。(河野)広貴のゴールは勇気を与えてくれた。前線の人数が近く、3人が迫力ある攻撃をしていた。この一戦に懸ける思いがあったし、このメンバーで成し遂げることができれば、何かにつながると思っていた」と語った。
試合前からフィッカデンティ監督は「これまで試合出場の機会が少ない選手たちにとってはアピールの場になるだろうし、我々も彼らを見極める良い機会にしたい」と口にしていた。次節以降の先発メンバー、システムにも注目が集まる。この日の青赤を着た選手たちは、ミステルを振り向かせるだけのプレーを見せていた。それが、チームの成長曲線をクイッと上向かせたに違いない。この1勝は大きい。
以上
2014.03.20 Reported by 馬場康平
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