J1第3節・名古屋戦からシステムを3バックに変えた柏は、浦和と同じシステムを敷くことでミラーゲームへ持ち込む。それでもこのシステムに関しては浦和の方に一日の長があるのは明白だ。主力5人を欠いた昨年のヤマザキナビスコカップ決勝のような一方的な展開にならないとしても、浦和がゲームをコントロールしていくことは必然の流れだった。
浦和の攻撃時のビルドアップの仕方、アタッキングエリアに入った時の流動性と連動性、緩急の付け方、そのタイミングの取り方はさすがと言っていい。ミラーゲームに持ち込んだ柏にとって、各ポジションでのマークがはっきりしたというのは確かにあったのだが、李忠成と近藤直也、原口元気と鈴木大輔、梅崎司と渡部博文がマンマーク気味にマッチアップする部分を逆手に取り、中盤からくさびの縦パスが入った時、前線の3枚が連動しながらギャップを突き、柏守備陣の食い付きを利用して、何度か好機を作り出した。
17分、浦和が先制。柏木陽介の縦パスを李がダイレクトで流し、ギャップを突いた宇賀神友弥のミドルシュート、左ポストに直撃したこぼれ球を梅崎が押し込んでゴールを挙げた。これに浦和の色が出ていたならば、柏は攻撃時に大谷秀和が左に流れるため、大谷のいる左サイドで作り、縦を使う、あるいは逆サイドへ展開してスペースのある右から射抜く形は柏の色である。浦和とは異なり、レアンドロ、工藤壮人、田中順也の3人の連動で軽やかに崩すようなシーンはなかったが、43分の同点ゴールになったPKに至る一連の展開は、左サイドでの構築から生まれている。
本来は浦和の右ウイングバックに入った関口訓充が、彼の攻撃力をもって橋本和との1対1を制し、サイドをグイグイと押し込みたかったのだろうが、攻撃力を生かせず橋本に背後を狙われてしまったことは、浦和としては大誤算だったのかもしれない。後半開始と同時に右サイドにテコ入れをしてきたペトロヴィッチ監督の選手交代が、そう物語っているようにも思える。
ペトロヴィッチ監督が濱田水輝を入れ、森脇良太を右のウイングバックに上げて柏のサイド攻撃に対処したこと、そしてネルシーニョ監督も「相手に食い付かずに我慢をすること」と守備に修正を加えたこともあり、後半は前半とは違った展開になる。浦和はくさびの縦パスから前線3枚が連動して崩す形が少なくなった代わりに、槙野智章がリスクを冒して攻め上がる機会が増し、その対応に工藤が戻るため柏は攻撃に掛けられる人数が制限され、前半以上に攻撃の浦和、守備の柏という構図が生まれた。
ただ、柏は攻守が切り替わった際には速い攻撃を繰り出し、特に中盤のハン グギョンが効いていたことで何度も中盤でボールをもぎ取り、そこからショートカウンターへ転じる。
こうした膠着した試合で勝負を決めるのは、得てしてセットプレーであるケースが多い。「鍵になるのはセットプレーだから狙っていた」と今季初出場となった渡部は話す。79分、右CKからチーム随一の制空権を誇る長身DFのヘッドが炸裂。このゴールで柏が逆転する。また、このCKを獲得する前のプレーは、上記のハン グギョンのパワフルなボール奪取がショートカウンターの起点となったことを付け加えておきたい。
10年ぶりとなる浦和戦の日立台開催。アウェイ側スタンドは浦和サポーターで埋め尽くされた。スタジアムは両サポーターによってテンションが高く、昨年のヤマザキナビスコカップ決勝戦の再現ということも相まって、リーグ戦ではここまで調子の上がらない柏が本来持つ“勝負強さ“を、強敵の浦和だからこそ呼び起こしてくれたと見ている。
柏と浦和、昨年のファイナリスト同士による開幕戦は、お互いが正面からぶつかり合い、双方の高質なパフォーマンスと高いモチベーションに裏付けされた見応えのある好ゲームだった。
以上
2014.03.20 Reported by 鈴木潤
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