リーグ開幕から2週間が経ち、カップウィナーの称号を巡る戦いが始まる。シーズンが本格化する合図である。選手は週2回のスケジュールをこなすべくコンディショニングに腐心し、監督は選手起用や短期間での戦術修正に頭を悩ませる。リーグ戦よりも長い歴史を持つヤマザキナビスコカップというタイトルは紛れもないビッグタイトルであり、“優勝”という栄誉に浴することができる、大事な大会だ。名古屋の西野朗監督と甲府の城福浩監督はともにヤマザキナビスコカップ優勝経験者。それだけにもう1つのリーグタイトルへのモチベーションも十分である。
リーグ3戦で2勝1敗とすばらしいスタートを切った西野監督率いる名古屋は、試合を重ねるごとにチーム力を増してきた印象だ。その理由を指揮官は「メンバーを固定していることもあるかもしれない。お互いの距離感もわかってきて、ボールに対する人の集散の動きも出てきた」と指摘する。それだけに今はメンバーをあまり動かしたくないが、一方でコンディションへの憂慮もある。西野監督は「トライする場所ではない。バックアッパーを起用して試合をしても、チームは上がっていかない」と前置きしつつ、「ただ疲労を考慮しなければいけない選手もいるし、若い選手は経験になっている反面で慣れていない分、ダメージもある」と語る。それを踏まえて予想される選手起用は、前線とDFラインの入れ替えだ。好調を維持するケネディと玉田圭司、楢崎正剛と田中マルクス闘莉王を今回は温存。さらには「若手のダメージ」という言葉からは、田鍋陵太と本多勇喜の両サイドバックの休養も示唆しているように思える。当の本人たちは「今は続けて出たい」(田鍋)と出場に意欲を見せているが、控えの刀根亮輔、牟田雄祐、佐藤和樹たちもそれは同様だ。チームの根幹たる中盤は継続起用で連係を養わせ、その他のポジションにはチャンスを与える。カップ戦初戦への西野監督の思惑は、そんなところだろうか。
対する甲府もまた、選手の入れ替えはありそうだ。リーグ前節の新潟戦後、テレビインタビューに対し城福監督は「もちろん全力で勝点を取りに行くが、ヤマザキナビスコカップを通して選手層を厚くしていくことも大事」と発言。リーグ3戦で2分1敗といまだ勝利のないチームだけに、大幅なターンオーバーはないだろうが、途中交代で存在感を見せている石原克哉や水野晃樹などのスタメン起用は十分にあると見る。ジウシーニョの負傷により盛田剛平をFW起用している前線も、休養や代役候補の選定のために入れ替えがあってもおかしくないセクションだ。リーグ前節では盛田の交代後、クリスティアーノと水野、そして石原で決定機を何度も生み出している。ここに例えば開幕スタメンを勝ち取った下田北斗を組み合わせるとどのような化学反応が起こるのか、興味深いところではある。一方で名古屋のサポーターとしては、連戦にはなるが阿部翔平にはぜひとも出場してほしいところ。名古屋時代よりも攻撃的なポジションを務める“阿部ちゃん”は、瑞穂で大きな拍手をもって迎えられるはずだ。
さて肝心の試合展開だが、9名で緊密な守備ブロックを築く甲府に対し、名古屋がどのような崩しを選択するかが見もの。今季の名古屋は高さを活かすサイド攻撃だけでなく、ショートパスを駆使した中央突破も多用しており、その流れは「自然にそうなっている」(玉田)ほどスムーズだ。しかし守備時は5−4−1のような形になり、ゴール前およびバイタルエリアを封鎖する甲府の守備を崩せるほどの完成度はまだない。そうなればケネディの高さを活かしたサイド攻撃が1つの起点となりそうだが、前述のとおりケネディの出場はどちらとも言えないのが現状。そこで鍵となるのがセットプレーである。甲府は開幕からの3試合で喫した6失点中5失点をセットプレーから奪われており、いわば弁慶の泣き所だ。名古屋はケネディ、闘莉王が出場せずとも、矢野貴章、ダニルソン、大武峻、牟田と185cmオーバーの選手をこれだけ揃えることができるため、対甲府の大きな武器となることは間違いない。甲府はファウルに対し普段以上に注意する必要があり、逆に名古屋は少々強引にでも密集地帯への仕掛けを増やすことも有効になる。名古屋のキッカー小川佳純もキックの精度は日々上昇。「キャンプから感触はいいですが、もっといいキックを中に送りたい」と自信を見せている。
勝点3を狙いながら、試す。両チームともに実は二兎を追う戦いの中で、目論見を果たすのはどちらか。リーグきっての戦略家2人の智謀と、その薫陶を受ける選手たちの反応に注目したい。
以上
2014.03.18 Reported by 今井雄一朗
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