劇的な逆転勝利の試合後だというのに、金澤慎の表情は硬いまま。何を問いかけても、氷のような表情の中に感情を封じ込め、淡々と受け答えを続けた。古巣を相手にJ1では初めてという1試合2得点を決めた菊地光将は、失点の多さを嘆き「手放しでは喜べない」と話した。
まさに勝って兜の緒を締める彼らの対応ではあるが、それは謙虚さが故のものではなく、試合内容で川崎Fに圧倒された事実を踏まえてのこと。内容の悪さを理解した上での対応だと考えるべきだろう。
大宮はアウェイでのこの試合で見事な逆転勝利を飾る。86分に大久保嘉人にゴールを許し、追い詰められる。等々力を埋める川崎Fサポーターの熱狂をひしひしと感じながら、彼らはその状況の中でできることを遂行した。
そもそも大宮は試合開始4分にCKから菊地が先制点。12分にオウンゴールで同点に追いつかれ、川崎Fのパスワークを前に防戦一方の戦いを強いられる。そんな劣勢の中、29分に家長昭博が移籍後初ゴールを決めて勝ち越し。ワンツーで抜け出し、個人技を見せてのファインゴールだった。
前半をリードして折り返していたこともあり、70分にレナトに喫した同点ゴールに続く86分の逆転ゴールで気持ちを折らしていても不思議ではなかった。だからこそ、90分に決まった菊地の同点ゴールに続き、90+3分のチョ ヨンチョルの逆転ゴールは奇跡的だった。
殊勲のチョは「1回目のカウンターのチャンスにミスっていたので、最後は『ここが勝負だ』と思い切って行った。左足でしか打てなかったけど、そこしかコースはなかったので、ニアに打てば入るかなと思った。89分に、アキ(家長)のFKからキャプテン(菊地)がよく追いついてくれた」とその場面を振り返る。ただ「もっと主導権を持ってやらないと、勝っていても押し込まれると疲れも溜まる。次はどんな展開でも主導権を持ってプレーしたい」と反省することを忘れなかった。
一方の川崎Fはこの大宮戦に至るまでの公式戦3試合連続で、後半のアディショナルタイムに失点を喫してきた。試合終盤の戦いに課題を残していたのである。そんな中、試合終了までは数分。アディショナルタイムを含めても10分もないという中での大久保のゴールである。選手たちの間に「守りたい」という心理が働いたとしても不思議ではない。
例えばGK杉山力裕は、大久保の逆転弾の後の時間帯をこう振り返る。「今まで通りやっていれば、自分たちのボールで回せていたのに、急に受けに回ってしまったというか、急に消極的になってしまったのかな」。
ただ、フィールドプレーヤーたちはそんなことはなかったと振り返る。中村憲剛は「(逆転して)ホッとはしてないです。完全に締めようという話は中ではしてました」と述べる。大久保も「オレはキープすればいいのかなと思っていた、向こうを走らせてね」と説明。同じ文脈で田中裕介も「3点目を取った後はみんな、このまま終われば勝てるという意識でいた」と話す。少なくともフィールドプレイヤーたちに守備的な戦いにシフトチェンジしようという意図はなかった。
ここで生じている、GK杉山とフィールドプレーヤー各選手が感じた印象のズレはそれほど問題ではない。86分に逆転ゴールを浴びた後、大宮は菊地を前線に上げており、単純に攻撃の枚数を増やしていた。相手が前に掛かっている以上、守備の選手たちの軸足が少しばかり下がるのは必然的な流れだからだ。彼らの印象にズレが生じることを理解した上で問題だと感じるのは、終盤にリードした状態でどうすれば勝てる可能性を一番高められるのかの共通認識がなかったということであろう。そしてその件について中村は「どうやって終わらせるのかというのは、チーム全体として共有していかないといけない」と話しつつ、だからこそ一例として大宮の3点目のきっかけとなったFKを与えたファウルは不要だったと話す。何故ならば、この日の川崎Fは大宮を圧倒しており、唯一セットプレーだけが怖かったからだ。
パウリーニョはサイドを破られそうになったことに対する責任を取りたかったのだろう。ただ、そこで焦ってファウルするべきなのか、それとも遅らせようと全力を尽くすのか。そうした判断の向上が求められている。そしてこれはまさにディテールであり、個人の判断に帰結する問題だった。
結果的に大宮の3倍のシュートを放ち、大久保をして「内容に関しては、後半とか完璧だった」と話す試合ができていただけに、川崎Fが勝点3を目指して攻勢に出るのは当然。前掛かりになった川崎FはCKからのカウンターを受けた時、一度はマイボールにしながらも、攻撃への切り替えを焦ってしまいパスミス。これを拾われてチョに繋がれ、逆転ゴールとなる。早く切り替えたい気持ちはわかるが、時間のない状況だからこそ正確にプレーする必要があった。もちろんこれは結果論になるが、本当にもったいないミスだった。
ただ、強がれる内容だったのも事実である。ACLを含めた公式戦5試合の中で、川崎Fの試合内容は徐々によくなっている。大宮がまだ完全にチームを作れていないという事情はあるが、それにしてもワンサイドゲームとも言える内容を実現し、圧倒的に攻め込めたということ。そして、ブロックを作りゴール前を固める相手を攻め崩し、得点を奪ったという点は誇っていい。だからこそ、個々の選手が細部にこだわりを持ち、それぞれの状況でやるべきことをやる必要がある。負けは負けとして認めた上で、そのミスを再現しないことが求められる。事、ここに至っては“失点しても、点は取れるから勝てるだろう”ではいけないのだと思う。敗戦のリスクを極限までなくすには、失点しないというこだわりを持つ必要がある。無失点で試合を終わらせるということにこだわって、そのためにミスをしない試合運びを期待したい。
彼らは武器を手にした。ピカピカに磨き上げたとびきりの武器だ。そしてその武器を使いこなすだけの技術も身に付けつつある。今後はその武器をどこでどう使うのかの判断力を高める必要がある。勝ち星を積み重ねながら、その判断力を身に付けられれば最高なのだが、JリーグとACLとを同時に戦いながらという状況はそう簡単でもない。こういう敗戦を受けて、腹立たしい気持ちになるサポーターがいるのも理解できる。苦しい時こそ応援したいと考えるサポーターがいることも理解できる。そして、そうやってサポーターを悲しませていることに選手たちは心を痛めている。ただ、こうした状況は勝利で簡単に払拭できるのも事実。勝利まではもう一歩だ。足りないピースを身に付けて、結果を出したい。続く試合は、アウェイでのACLを挟みアウェイでの多摩川クラシコだ。サッカーの神様は粋なはからいをするものである。
以上
2014.03.16 Reported by 江藤高志
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