「ススキノへ行こう〜♪」
試合後、ヤマハスタジアムに響いたのは札幌のチャントだった。アウェイゴール裏の前で選手たちが肩を組み、サポーターの声に合わせて飛び跳ねる。サポーターに促され、代表取締役社長・野々村芳和氏もその輪に加わると、スタンドの歓声はさらに大きくなった。

両者のチーム状況は対照的なものだった。ベストメンバーが揃ったのはホームの磐田。新フォーメーションはキャンプからやり込んできた[４−２−３−１]。GKに新加入の藤ヶ谷陽介を置き、同じく新加入のフェルジナンドをボランチで起用。１トップには前田遼一、２列目に右から山田大記、松井大輔、ポポを並べた。
一方、アウェイの札幌の布陣も[４−２−３−１]。財前恵一監督が試合後の会見で『急造』という言葉を使った通り、複数の離脱者を抱える苦しいチーム状況だった。奈良竜樹、パウロンを負傷で欠き、センターバックには櫛引一紀、さらに右サイドバックを本職とする小山内貴哉を起用。中盤にはルーキーの上原拓郎を先発起用し、宮澤裕樹とダブルボランチを組ませた。２列目に砂川 誠、菊岡拓朗、石井謙伍、１トップに内村圭宏と攻撃陣は主力の名前が並んだが、指揮官は「押し込まれる展開は覚悟していた」と明かす。

その予想通り、磐田ペースでスタートした前半だった。だが、先制したのはワンチャンスを生かした札幌。ヤマハを沈黙させたのはベテラン・砂川の一振りだった。16分、前線で石井が体を張り、敵陣でFKを獲得。ゴール前やや右の、一般的にはクロスを上げるべき位置だったが、直接シュートを狙えなくもない微妙な位置だった。キッカーを務めた砂川は「（GKと）駆け引きしていた」とこの場面を振り返る。札幌の今季初得点を呼び込んだのは、背番号８ならではの“嗅覚”だった。最初からシュートを打つと決めていたわけではない。「（クロスとシュートの）両方を考えていた」。壁の枚数・位置、雨で濡れたピッチ。直感した。「打っても悪くない」。右足で放たれたライナー性のボールは３枚の壁の横を通過し、ニアサイドへ。イメージ通り、磐田・藤ヶ谷の手前でワンバウンドし、ゴールに向かった――。
「僕も狙うとは思っていなかった。それくらい意表を突いたものだった」とこのシーンを振り返ったのは札幌・財前監督。「スリッピーなピッチを利用し、すばらしい判断の得点だったと思う。大事な場面で、大事な試合で決めてくれた」（同監督）。リード後は防戦一方となっただけに、試合後は「FK以外何もしていない」と謙遜した砂川だが、ここ一番で高い集中力を見せた。
一方、藤ヶ谷は「壁の作り方が甘かったかなと。反省すべき点」と悔やんだ。完全に逆を突かれた。目の前で弾んだボールに反応し、タッチしたが、弾き切ることはできなかった。

先述した通り、その後は“攻撃の磐田”“守備の札幌”という展開となった。結果的に無得点に終わった磐田だが、決定的なチャンスは幾度となく作った。13分には山田のクロスを新加入の松井が右足のヒールでシュート。さらに29分にも山田のクロスを松井が右足で合わせたが、いずれも札幌・金山隼樹に防がれた。前半終了間際には新戦力・ポポのクロスを山田が押し込んだが、これはオフサイドの判定。
０−１で前半を折り返すと、後半途中にサブの金園英学、山崎亮平、ペク　ソンドンを次々と投入。74分には前田遼一がPKを獲得。自らキッカーを務めたが、これも金山にブロックされた。終盤にはボランチを１枚削り、前線の枚数を増やす攻撃的布陣へシフトしたが、最後まで札幌からゴールを奪うことはできなかった。

試合後、「数多くのチャンスを作ったが、それを生かすことができなかった」と唇をかみ締めたのは磐田・シャムスカ監督。磐田デビュー戦となった松井も「自分も含め、決めるべきところを決めないとこういった結果になってしまう」と課題を口にした。今季開幕戦から思わぬ黒星となったが、次節のアウェイ・讃岐戦（３／９＠丸亀）で今季初勝利を目指す。
一方、勝利した札幌・財前監督は「選手たちが最後まで体を張ってくれた」とゲームを総括。好セーブを連発した金山も「みんなが体を張ってコースを限定してくれたので、止めるだけだった。全員に感謝している」と笑顔を見せた。次節のホーム・山形戦（３／９＠ 札幌ド ）にも勝ち、開幕ダッシュを狙う。

以上

2014.03.03 Reported by 南間健治