対戦相手は広島に決まった。準決勝・鳥栖戦後の囲み取材。その時点でもう片方の準決勝、広島対F東京は試合中だったのだが、榎本哲也は「(決勝は)個人的には広島とやりたい。リーグ戦で最後にあのような…」と言った。その後の言葉の続きを繋がず、別の話に変わってしまったが、リーグ戦の優勝をさらわれた相手に借りを返したい想いが強いことは分かった。今季のリーグ戦で広島に2戦2勝。それだけ見れば、横浜FMはリーグ優勝できるだけの実力・資格ともに兼ね備えていたと言えるだろう。富澤清太郎も今季を踏まえて、強気にタイトル奪取を宣言した。「今年一年、誰が見ても、トータル的にウチが一番いい結果を残していると思うので、やっぱりタイトルを取りたい」と。
決勝を迎えるにあたって横浜FMにとって一番の心配の種は、点取り屋の不在だろう。エースのマルキーニョスが神戸に移籍し、その穴を埋めるべく準々決勝・準決勝で先発を務めた藤田祥史も累積警告で決勝は出場停止に。中2日の戦いを前にシステム変更する時間もないわけで、空いた1トップの位置には、23歳の端戸仁が入ると予想される。今シーズン、J2北九州からのレンタルバックで復帰した端戸は、FW登録ながらチーム事情でサイドハーフに起用される機会が多かった。得点こそ4月13日の川崎F戦での1点のみだが、時より見せるトリッキーなプレーは、彼ならではの武器であり、「天才肌のレフティー」と称される所以だ。印象に残るトリッキーなプレーは、例えば8月17日のF東京戦。サイドからゴール前へスルスルと上がって顔を出すと、兵藤慎剛からのパスをヒールパスで落としてワンツーを決め、そのまま兵藤がゴールを奪った。最近では延長後半8分に途中出場した天皇杯準々決勝・大分戦でセンスの一端を見せた。右サイドでボールを受けると、キックフェイトを入れて切り返しマーカーを外す。シュートレンジに侵入し、そこで彼は、意表を突く左足のループシュートを選択。GKが辛うじて触ってからバーを叩いた柔らかいタッチのシュートにスタンドが沸いた。174cm・60kgと華奢な体型ながら、持ち前の創造性とテクニックでどこまで勝負できるか、見ものである。その一方で、“前線の高さ”を失う影響が、試合にどう反映されるかも気になるところだ。
もう一人クローズアップしたいのは、チームで唯一、元日決戦を経験しているプレーヤー、富澤清太郎だ。第84回大会では東京Vのセンターバックを務めて2−1で磐田を倒し、天皇杯制覇に貢献。あれから9年が経ち、横浜FMでは試合の機微を察知できる、いぶし銀のアンカーへ成長した。優勝を逃したリーグ戦最終節後には、「これが今のチームの現状。悔しい気持ちがある」と落ち込んでいたが、先の鳥栖戦後には「(ベスト8で)何とか大分に勝って、今日は大分戦より内容を見せて、ひとつひとつ階段を昇っている最中。決勝で本来の姿に限りなく近いものを見せられるんじゃないかと。自分たちのスタイルを最後まで貫くことには変わりない」と前を向く。
連敗したリーグ戦ラスト2試合のような気負いは選手たちからは感じられない。自然体で臨み、『元日国立』で本来の姿を取り戻す!
以上
2013.12.31 Reported by 小林智明(インサイド)
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