広島のMF野津田岳人がネットを揺らした瞬間、歓声と悲鳴がそこかしこで上がり、それがひとまとまりになった声は表現しがたい塊となった。120分の熱戦はそうして決着をみた。
試合開始前から驚きがあった。F東京のランコ ポポヴィッチ監督は先週、一度も練習していない最終ラインをスタメンで起用した。右から加賀健一、チャン ヒョンス、森重真人の3バックが並び、ダブルボランチには米本拓司と高橋秀人が。ウイングバックには徳永悠平と太田宏介が入り、前線は渡邉千真の下に、東慶悟と長谷川 アーリアジャスールを置いた。
広島とまったく同じ3-4-2-1の配置。ハーフェイラインを挟んで鏡映しのように両者が並ぶ。選択したサッカーも互いに同じ。両者とも相手のミスを待ち、奪ったボールをゴールへと運ぶ。当然、試合は膠着した。0-0のまま、時間だけが進んでいく。緊迫した試合は90分でも決着がつかず延長戦へと突入した。
そして、前後半30分の延長を終え、PK戦がF東京の先行で始まる。太田宏介が左に決め、中央に蹴り込んだ青山敏弘のシュートは塩田仁史がストップする。森重は中央に決め、水本裕貴が左に蹴り込む。3人目はチャンが真ん中に決めたが、千葉和彦がバーの上へと外す。2本差がつき、東京は限りなく勝利に近づいた。
しかし、別の筋書きが用意されていた。東京側は三田啓貴、長谷川 アーリアジャスールが西川周作にストップされたのに対し、広島は続けて2人が成功する。ここで振り出しに戻ると、米本拓司が左上に決め、浅野拓磨が中央へと蹴り込む。そして、石川直宏が西川に止められ、野津田が最後のキッカーとなった。広島の今季の勝負強さが際立つ結果となった。
「これもサッカーなんだ」。ポポヴィッチ監督は選手にそう伝えた。喜怒哀楽が詰まったポポトーキョーの終演は、12月29日の国立霞ヶ丘競技場となった。アジアへの初挑戦、東京のサッカースタイルをブランド化など、トライ&エラーを繰り返しながら歩んだ2年だった。小平グラウンドでは厳しい言葉を繰り返したが、ひとたびピッチを離れれば、温かい言葉で選手を後押しし続けてきた。最後の言葉はいつも話してきた言葉と一緒だった。
「オフは短くていいと思っていた。水曜日にこのスタジアムに来て、決勝を戦うつもりだった。タイトルを獲得できるチャンスがあったし、懸ける思いは強かった。選手たちはすべて出し切ってくれたと思う。(PKを外した三田は)こういうことを乗り越えてほしい。それでこそ本当の意味で一流選手になることができる。何回転ぶかが重要ではなく、転んだときに何をするか、早く立ち上がれるかが重要。今日の経験を生かして欲しい。彼にとってはつらい一日になってしまったかもしれないが、ヒーローになるチャンスもあったのだから。全員がいいプレーをした。運動量も120分間落ちることがないと思っていた。その中で攻撃がうまくいなかった。延長戦でも何回かチャンスがあったし、PK戦でも2回勝負を決められるチャンスがあった。そういう意味では勝利をほぼ手中に収めながらもものにすることができなかった。選手たちには顔を上げろと言った。選手たちも決勝に行ってタイトルを取る気持ちだった。この敗戦は望んでいたものではなかったが、力を出し切るということはできた。
素晴らしい2年間だった。私が就任当初から掲げてきたことは順調にできた。サッカーの質や、積み上げた。ただ、それが勝点につながらなかった。私がここに来てから長期的な成功を収めるためにいいチームづくりができたと思う。リーグ戦を戦っていてもうちのチームほど攻撃的なチームと対戦することはほとんどない。それがF東京史上最多ゴール数という形で残った。スタイルを築くことができたことは誇りに思っている」
常に攻撃的な姿勢を貫く。理想を掲げ、それに邁進するぶれないチームづくりが何をもたらすのかを知り得た2年だった。信念を曲げない男・ランコ ポポヴィッチ。彼はF東京に多くのものを残した。間違いないことは、それが次へと進むエネルギーとなっていくということだ。
一夜明けてポポヴィッチ監督は白板に大きく「ブラボー」と書き残し、選手たちに拍手を送ってクラブを去っていった。そして、来季、クラブはブーツの国から新たな指揮官が来ることを発表した。ブーツを履き替え、F東京は次のステージへと歩を進めていく。
以上
2013.12.30 Reported by 馬場康平
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