思い返せば2013年の早春。発表されたばかりのJ1リーグのスケジュールをザッとみたとき、最終節の「甲府対鳥栖」という組み合わせを知った両クラブに関係する人々の多くは、日程くんが過酷に運命付けた「勝ったら残留、負けたら降格となる対戦か…」と危惧したのではないだろうか。
しかし、今シーズンの日程くんは最終節まで優勝争いを盛り上げることに能力を傾注したようで、甲府と鳥栖は最終節を前に残留を決めていて、共通の話題は「天皇杯決勝で会いましょう」と、ぼちぼち幸せな状況での対戦。
J1の戦いは立ち上がりが様子見になることが少なくないが、この試合は最初から熱のある内容。鳥栖のボールハントの勢いがすごいことはいつも通りだったが、甲府も鳥栖につられかのように激しくサボることなく奪いに行くから開始と同時に肘にも熱のこもる試合となった。
鳥栖は14分に豊田陽平が打ったシュートが最初の決定機だったと思うが、鳥栖のシュートを前後半で6本に抑えた甲府の守備は良かった。前日練習で肘を痛めたキャプテン・山本英臣に代わって先発した土屋征夫は前半戦同様に“らしさ”のある、“代役ではない”プレーで無失点に貢献。ケガから復帰して間もないボランチの新井涼平は出場時間が長くなればなるほどに貢献度が高まり、攻撃の芽を摘む迫力が増していく。鳥栖は献身的な選手ばかりだが、なかでも2列目の早坂良太が運動量豊富で、ガットゥーゾ(元イタリア代表)みたいに甲府のチャンスの芽が育ちそうになると刈り取っていった。髭を伸ばせばガットゥーゾにちょっと似るような気もするくらいプレーに迫力があって、甲府のウィングバックに欲しいなあと…強く印象に残った選手。
前半の最後は、甲府に決定機が何度かあったが、最後の最後でやらせないのは甲府も鳥栖も一緒。“あれが決まっていれば…”という思いはあるが、守備堅さ(鳥栖には豊田の頭もある)が売りのチームなので信じて耐えることも必要。ハーフタイムも歌っていた甲府サポーターに送り出された後半開始間もない52分、柏好文が右サイドを突破して入れたクロスがパトリックに合ったがヘディングシュートは林彰洋がキャッチ。4〜5月に結果が出なかった鳥栖を救った林の安定感やセンターバック菊地直哉の読みやカバーリングが甲府のアタッカーに“最後の質やアイディア”の必要性をキツク教えてくれる。ホーム最終戦に賭ける気持ちは甲府の選手が強く見せたが、C大阪、磐田、C大阪(天皇杯)、鹿島、浦和と、大物を公式戦で倒してきた鳥栖の守備は隙を見せない。74分の青山直晃の連続シュートや79分の柏の低い弾道のパンチのあるミドルシュートなど、後半の中盤には甲府に決定機があったが、やはり林や丹羽竜平が立ちはだかる。そして、終盤になると勝利の女神が鳥栖に興味を持ち始めるが、ゾッコンにはならなかったみたいで87分の豊田のシュートも決まらずタイムアップ。豊田航空のフライトを甲府は許さなかった。
鳥栖の選手のコメントにもあるが、お互いに守備の堅さを発揮し、槍は刺さらなかったが鉾は健在だったゲーム。攻撃にそれぞれの課題は残ったが、天皇杯準々決勝(12/22)での対戦相手は甲府が広島(@Eスタ)、鳥栖が川崎F(@ベアスタ)とまたタイプが違うのでどうなるかわからない楽しみがある。天皇杯では逆の山にいる甲府と鳥栖が対戦するのは決勝だけ。東京オリンピックの象徴である国立競技場最後の天皇杯決勝が鳥栖対甲府になれば――だいぶん地味だけど――日本サッカーの広がりの象徴にもなるはず。“霞ヶ丘町で会いましょう”と、甲府と鳥栖のストーリーをつなげたい。
強いチームの光と熱に晒されても“負けない甲府”という核は融けずに残った。8連敗中は大量失点をしたにもかかわらず失点の少なさはリーグ5位。12月22日の天皇杯準々決勝に向けて、延長0−0引き分けのPK戦勝利を最後の砦としながらも、1点を取る取り組みを続けるだけ。肘をケガした山本英臣が間に合うかどうかはわからないが、ブラジル人選手はクリスマスを挟む天皇杯も契約通りに残って戦ってくれる見込み。現在地の“負けない甲府”から短い期間で大きく前進することはないが、“継続”の強みが結果につながりやすい水域に到達することを期待。1点未満の打線を何とか1点打線に持っていきたいが、城福浩監督が言うように「ミラクルレシピはない」。レギュラーにケガや故障があるものの、佐々木翔、河本明人は伸びて自信をつけているし、橋爪勇樹、新井涼平、岡大生ら新しい力も加わり、大ベテランの土屋征夫が貯め込んだ葛藤をプラスのエネルギーにして復帰と新しい流れもあり、もう一つレベルアップできそう。リーグ戦最後は引き分けが続いたがJFK甲府はまだまだ熱く盛り上げる。霞ヶ丘町で会いましょう〜。
以上
2013.12.08 Reported by 松尾潤
J’s GOALニュース
一覧へ- natsuyasumi2024
- jwc2024
- 国立20240824
- pari olympic2024
- bluelock2024
- THE国立DAY
- 2024 明治安田Jリーグ フライデーナイトJリーグ
- 2024JリーグYBCルヴァンカップ
- Jリーグ×小野伸二 スマイルフットボールツアーfor a Sustainable Future supported by 明治安田
- AFCチャンピオンズリーグ 2023-24
- はじめてのJリーグ
- 2024天皇杯
- seasonreview2023 Jリーグ1年の振り返り(別ウィンドウで開く)
- シーズン移行の検討
- 明治安田Jリーグ 月間表彰
- 2023 移籍情報
- 大会概要まとめ
- 2024Jユースカップ
- シャレン Jリーグ社会連携
- Jリーグ気候アクション
- Jリーグ公式試合での写真・動画のSNS投稿ガイドライン
- J.LEAGUE CORPORATE SITE