勝利した31節の清水戦は、風間八宏監督が実践してきたチーム作りが成果として出たと言っていいのかもしれない。4失点した30節の鹿島戦からは4人の最終ラインの選手のうち3選手が入れ替わるなど、総勢で6選手が入れ替わる中、清水を相手に無失点試合を演じて快勝した。

風間監督は選手をポジションに当てはめるのではなく、その選手の特徴に従い、躊躇なくポジションを代えてきた。そうした風間監督の采配の特徴がはっきりと出たきたのが、田中裕介の起用法であり、その田中裕介に代わって右サイドバックをこなす小宮山尊信の起用法であろう。田中裕介はサイドハーフやセンターバックはもちろん、時にはボランチまでこなす器用さを発揮。チーム戦術に大きく貢献してきた。またその田中裕介に代わり、右サイドバックとして清水戦に先発した小宮山の例も、選手をポジションで縛らないという風間監督の起用方針の中で語られるべきものであろう。

清水戦では、負傷中の中村憲剛や稲本潤一の穴もそれぞれに矢島卓郎と、大島僚太が埋めており、そういう意味では川崎Ｆは順調にその選手層を厚くしてきたということが言えるのかもしれない。ちなみに中村憲剛も稲本潤一も全体練習には合流しているが、この山形戦での先発の可能性は半々か。風間八宏監督は「調子のいい選手をどう使うのか。この前のエスパルス戦も良かったので、ある程度そこがベースになると思います」と述べている。

そんな川崎Ｆが等々力に迎え撃つのはJ2の山形である。山形は、17日のアウェイのＧ大阪戦を落とし、プレーオフ圏内への進出の可能性が完全に潰えてしまっている。J2はリーグ戦を1試合残すが、消化試合となってしまった。だからこそ、この天皇杯でひと暴れしてやろうと意気込んで臨むと考えるべきだろう。ただ山形にとって難しさになると思われるのは、中2日という試合間隔の短かさと、大阪と川崎の地でのアウェイマッチが連続するという点である。移動と試合と移動との連続の中で、フィジカル的な難しさを抱えていることは想像に難くない。

そうした山形の現状を踏まえた上で、山形のJ2での特徴を挙げるとすればまずはその得点力にある。41試合終了時点で98点のＧ大阪、75点の神戸に続く74得点を上げており、J2リーグ3位の得点力を誇っている。ただし、総得点で1点差の神戸とは得失点差で21点差を付けられており、守備に難点を残す傾向が出ている。打ち合うスタイルで戦ってきたということだが、そうしてくれる分には川崎Ｆとしては望むところ。さて、山形はこの試合をどう戦うのだろうか。

山形の得点源はFWの中島裕希。チームトップタイの12得点はもちろんアシストでも力を発揮しており、川崎Ｆにとっては要注意人物だということが言える。またこの中島は、Ｇ大阪戦を累積警告で欠場しており、体力的な問題を抱えていないという部分も怖さになりそう。中島に並ぶシーズン12ゴールの林陵平はケガのため出場は叶わないが、Ｇ大阪戦2ゴールの萬代宏樹やベテランの山崎雅人といった選手も控えている。彼らをターゲットにしたサイドからのクロスやセットプレーが山形の攻撃を特徴付けており、右サイドハーフの宮阪政樹や、左サイドバックの中村太亮など精度の高いキックを持つ選手には警戒が必要。不用意なファールは厳に戒めなければならない。

いずれにしても、川崎Ｆは元日の決勝戦に向けてぜひとも勝利したい一戦だが、一発勝負のトーナメントは何が起きても不思議ではない。まさにこの試合で対戦する山形は、3回戦で浦和を下している。そうした点を踏まえ、川崎Ｆは相手がJ2に所属するチームだとか、山形はプレーオフが消滅した直後だとかいう事実を一度忘れ、真摯に試合相手と向き合う必要があるだろう。その点、井川祐輔は「全然油断なんかしてないし、同じテンションで臨むつもりです。1月1日に国立のピッチに立ちたい気持ちは強いので、全然です。天皇杯だからということではなくて、公式戦の一つとして、（週末の）レッズ戦も公式戦ですし、その気持ちでやります」と述べ表情を引き締めていた。

チームは元日の国立での決勝戦を目指して戦うが、その前に倒すべき相手がいる。選手たちを鼓舞し奮い立たせるためにも、より多くのサポーターの応援を期待したいと思う。

以上

2013.11.19 Reported by 江藤高志