ただでさえ大谷秀和、橋本和が出場停止だというのに、公式前日練習にキム チャンス、鈴木大輔、山中亮輔の姿が見られなかったことが、さらに柏の不安材料を募らせた。
「浦和有利」。前日に報道陣が醸し出していたその空気は、選手たちも感じていたはず。プレビューでも述べた通り、メンタリティーの強さは柏の特徴でもある。当然「下馬評を覆したい」との思いを選手たちは抱いてこの決戦に臨んだことだろう。
とはいえ、柏が猪突猛進の勢いでアグレッシブに仕掛けたわけではない。全くの逆である。3−4−2−1のシステムを敷き、ブロックを作ってコンパクトなゾーンの中に浦和の選手を閉じ込め、マークを受け渡していくという守備を重んじる戦い方に出た。基本的にはクレオ、レアンドロ ドミンゲス、工藤壮人が3バックにプレスを仕掛け、パスの出どころを封じ、栗澤僚一と茨田陽生が浦和のダブルボランチを捕まえる。そして浦和の1トップと2シャドーを3バックがケアするという構図だ。
浦和は最終ラインやボランチが前線に縦パスをつけても、柏の3バックとダブルボランチが集中力高く、球際激しくチャージに行くため、効果的な攻撃をさせなかった。すると平川忠亮がサイドからジョルジ ワグネルの背後を突いて中へ入り、後方からのフィードを受ける動きを見せたが、この日のジョルジは献身的に守備をこなし、背後を突かれる軽率な守備は一度もなかった。
「浦和にボールを持たれていたけど、崩された場面はなかった」(工藤)というように、まさに“ハマる”という言葉が見事に当てはまる試合展開となる。
そして、その整理された守備組織以上に、柏が浦和を上回っていたもの、それはメンタリティーだと思っている。
菅野孝憲は言う。「選手が、選手のために戦っていた」と。ピッチに立った全選手が、この決勝戦に出られない選手の気持ちをくんで戦っていた。特に今週のトレーニングでキム チャンスが大怪我をし、選手たちは自分のユニフォームの下に「背番号27」のシャツを着てプレーをしていた。
そこに加えて、先述した通り柏には元来持つメンタルの強さがある。浦和にボールを持たれ、押し込まれても切れることなく、「耐え続けて必ずチャンスは来る」と、その機会を虎視眈々と窺っていた。
その瞬間がやってきたのは前半アディショナルタイム。藤田優人の低い弾道のクロスボールが一直線にファーサイドへ入る。「ここに来そうだ」と感じた工藤は、那須大亮から逃げるような動きで外へ回り、GK山岸範宏の手元を射抜く渾身のヘッドを炸裂させる。柏が待望の先制点を挙げた。
こうなると“策士”ネルシーニョ監督の狙い通りの展開だ。リードを奪った柏は、前半と同じように強固なブロックを作り、あとはカウンター狙いに出るだけである。ただ、ひとつ誤算といえば、藤田が前半で負傷し、後半から右のウイングバックに攻撃的MFの太田徹郎が入らざるを得なかったことで、槙野智章の攻め上がりを許し、さらに原口元気がワイドに開くなど、柏の右サイドが浦和にとって攻略の糸口となってしまう。ただ、それもネルシーニョ監督は計算済みとばかりに、76分、谷口博之に代えて増嶋竜也を投入することで、太田の背後のフォロー、中に入る2シャドーの動き、そして後方から放り込まれるロングボールへの対応にあたらせた。
思惑としては、クリア気味のロングボールをクレオが収め、前がかりになり手薄の浦和守備陣の背後をレアンドロ ドミンゲスと工藤がカウンターで仕留めて試合を終わらせることだったとは思う。それは、まだ怪我明けのレアンドロが本調子でなく、縦への推進力に欠ける部分、あるいは疲労で精度が狂うなどしてフィニッシュまでは行けなかった。守備面に関しては前半より押し込まれはしたものの、両ウイングバックが降りて5バック状態になり、その前に栗澤、茨田が壁を作り、中央をガッチリと固め、最後の城壁は突破させない。
1点差、しかもタイトルの懸かったこうした極限の戦いでは、本当に柏は強さを発揮する。AFCチャンピオンズリーグで揉まれたことも、さらにタフさを身に付ける要因になったのかもしれない。最後の浦和のパワープレーを弾き返した柏は、ついにヤマザキナビスコカップのタイトルを勝ち取った。国内主要3大タイトルを3年連続で獲得し、2010年のJ2を含めれば、4年連続のタイトルである。
ただ、柏の選手たちはこのタイトルだけでは飽き足らないようだ。優勝を決めたばかりだというのに「次は天皇杯も取る」と、全員が口を揃えた。
柏の今年の目標は、あくまで“カップ2冠”である。
以上
2013.11.03 Reported by 鈴木潤
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