名古屋・ストイコビッチ監督は試合前のマッチコミッショナーミーティングで仙台・手倉森誠監督といろいろ話したそうで、試合後の記者会見の場で感慨深そうな表情で振り返っていた。手倉森監督のほうも、「ベガルタ仙台の成長を感じてくれている監督に対して、自分達の成長をしっかり示そう」とチームに呼びかけて試合に臨んだという。
両監督は現チームを率いて6年目、今季でチームを去ることとなった。監督同士としては2010年に初めて対戦し、この年は名古屋が2勝(Jリーグヤマザキナビスコカップでは引き分け)。名古屋がJ1を制覇し、仙台は最終節で残留を決めるという力関係だった。しかしその後に仙台も力をつけ、2011年に対名古屋戦初勝利を収めると、内容的にも互角に渡り合える試合が増えた。
それぞれ切磋琢磨する中で、上のレベルで鎬を削ることができるようになった。今季はともに苦戦しているが、両者とも、現指揮官の下で築いてきたものを、この終盤戦のピッチ上でぶつけ合いたい試合だった。
前半は仙台ペース。公式記録上では45分間のシュート数は9対0だった。鎌田次郎の出場停止に伴い最終ラインに入った角田誠が「最終ラインを高い位置に取れるように注意したい」と事前に語っていたように、高めに、そして前後をコンパクトにした攻撃態勢を取ることにより、仙台は名古屋を押し込んだ。
名古屋はこの仙台に対して田中マルクス闘莉王を欠く守備陣で挑まなければならなかったが、牟田雄祐とダニエルの両センターバックが仙台2トップの柔軟な動きに対して食い下がってゴールを許さず。しかし攻撃では復帰したダニルソンがサイドに流れるなどして厚みを加えたものの、ベストの体勢でシュートに持ち込めず折り返した。
後半は、まず仙台がセットプレーで試合を動かした。右サイドの攻撃で太田吉彰がCKを得ると、近いサイドの赤嶺真吾が右CKに合わせる。これは止められたが、赤嶺が再び拾ってGK楢崎正剛の頭上を越えるクロスを送ると、逆サイドのウイルソンがこれに詰めた。
仙台はここから畳みかけたいところだったが、ストイコビッチ監督の修正によってその勢いを押し戻される。54分、ケネディが投入され、名古屋は4-3-3にシステムを変更。この試合で名古屋は永井謙佑と玉田圭司の2トップで速さと技巧を生かすかたちを狙っていたが、クロスに対して合わせるターゲットが足りずに苦労していたところがあった。そこでこの交代があり、高さと速さの両方を生かすことができるようになった。仙台が高さに気を取られれば、足下を突くというように。56分に藤本淳吾のスルーパスからの連係で相手DFを次々かわして玉田がフィニッシュした同点ゴールは、そのねらいが当たった。
仙台はミスを突かれて追いつかれたかっこうだったが、手倉森監督に何度も「焦れずに」と言われてきたチームは、ここで慌てずに反撃の時を待つ。そして名古屋が、ストイコビッチ監督が試合後に「Too wide!」という言葉に力を込めて反省していたように、終盤に間延びする。ここで途中投入された武藤雄樹が梁勇基とともに中盤のスペースを突き、最後に梁に代わって入ったヘベルチがドリブルとスルーパスをこのスペースで試みた。
それでも終盤の仙台のCKが4本連続で名古屋の守備に止められたように、試合は引き分けが濃厚に。しかしユアテックスタジアム仙台のホーム側の大声援に押された仙台が、最後の最後に試合を決めた。90+3分、ヘベルチが遠目から打ったシュートを、ゴール前のウイルソンが抜け出しながらコントロール。冷静にフィニッシュし、これを決勝点とした。
J1・J2通算で100勝を達成した手倉森監督は、この結果を受けて「仙台がビッグクラブの名古屋と対等に渡り合えるようになったことを示せた」という手ごたえを得た。「ここまで仙台をしっかり成長させ、いい結果を出しています」と、先にJ1で100勝をあげたストイコビッチ監督も健闘を称えた。両指揮官が今季までに作ってきたものを披露する、残り5試合。両チームがどのような財産を残し、引き継いでいくのか、これからも注目したい。
以上
2013.10.20 Reported by 板垣晴朗
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