試合終了の笛が鳴った直後、両チームの選手が何人も倒れ込んだ。「我々の選手たちは、とにかく勝利すべく、最後まで懸命に戦ってくれた」と浦和・ペトロヴィッチ監督。「この試合に関して、とにかく勝利を目的に戦うということはどちらのチームも違いはなかった」と山形・奥野僚右監督。すべてを出し尽くす激しい戦いの末に勝利を収め、4回戦進出を決めたのはJ2の山形。現実的に唯一、3冠にチャレンジできる立場にあったJ1浦和は、ここで敗退となった。
メンバー構成は予想どおり、互いに週末のリーグ戦を睨んだものとなった。浦和は直近のヤマザキナビスコカップ・セカンドレグから先発メンバー11人を総入れ替え。ベンチには森脇良太、槙野智章、宇賀神友弥を入れてはいたが、後に切られる3枚の交代カードでもこの3人がピッチに立つことはついになかった。それに対して山形は10日前の横浜FC戦から変わったのは4人。ただし、右サイドバックに入ったキム ボムヨン以外は横浜FC戦で出場停止だった秋葉勝のほか、昨年まで主力としてプレーしていた石川竜也と宮阪政樹。十分に準備の期間があったことも併せて、これまでのリーグ戦を中心とした流れや構築してきた組織的な要素を継続しやすいという面では、山形に分があった。
コイントスに勝った山形のゲームキャプテン・秋葉は、強風の風下のエンドを選択し、浦和のキックオフで試合は動き出す。互いにイージーなミスが多く行き来の多い立ち上がりとなったが、徐々にボール支配率を高めていったのは浦和。阪野豊史が裏を狙う動きで山形のラインを押し下げると、まだ十分に閉じられていなかった山形のバイタルエリアで山田直輝が巧みに縦のくさびを受け始めた。そうして相手に中を意識させると今度は長めのサイドチェンジが左サイドの梅崎司へ飛ぶ。意のままにボールを動かしつつある浦和だったが、フィニッシュまで到達するケースはほとんどなかった。そのため、山田暢久を下げて4枚になったバックラインから左の野田紘史が、さらに右の坪井慶介が高い位置を取り始め、後ろ3枚は小島秀仁を含む構成へ。ハーフタイムが近づくにつれて攻撃に人数をかける陣形に近づいていった。
やや間延びしたイメージの山形は、キックオフからしばらくはアタッキングサードで迫力あるシーンを見せてはいなかったが、秋葉から中島裕希へオフサイドにギリギリかからずスルーパスが送られた15分頃から、左サイドを中心に敵陣で起点をつくり初めていた。「チームのミーティングとかで、不用意なパスミス、トラップミスもあるからそこはしっかり狙っていこうとはやってた」(伊東俊)と、20分過ぎからはコースを限定して相手のくさびを狙いすまして奪ったり、トラップミスを拾い、相手の切り換えより早く攻撃に転じるシーンが増えていた。伊東がドリブルでゴール前まで持ち込んだり、林陵平、中島の2トップもフィニッシュに絡んでいると、37分には伊東の右クロスに左サイドバックの石川までがアタッキングサードに入り込み、クロス性のシュートを放っている。
チーム全体で連動性が高まった山形に得点が生まれたのは39分。バックラインから持ち上がった永田充のくさびを伊東が駆け引きしながらカット。林に預け、自らは永田の背後に大きく空いたスペースを突いていくと、再び受け取ったボールをワントラップ後にニアへ蹴り込んで先制点を挙げた。
しかしその3分後、今度は浦和がフリーキックから逆襲。キッカー・矢島慎也が右サイドから送ったボールに、マークを外してファーサイド裏へ抜け出し、低い打点のヘディングシュートでゴールネットを揺らしたのは阪野。「慎也が蹴る前に目が合って、俺もあそこで欲しかったし、慎也もあそこに入ってほしいという2人の思いがうまく合ったゴールだった」とあうんの呼吸が生んだ公式戦初ゴールで試合を振り出しに戻した。
後半に入り、山形の守備はさらに連動性と緻密さを増していた。くさびが入らない浦和は裏を突いた阪野がスピードに乗ったままシュートを放ったシーン以外に攻めあぐねていたが、ペトロヴィッチ監督は早めのカードを切る。山田暢に代えて野崎雅也がプレー、そして65分、小島秀仁に代わりピッチに送られたのは16歳の邦本宜裕だった。大抜擢されたユース登録の邦本はスクリーンされた相手の頭上を越えるパスを梅崎に送るなど非凡さを感じさせるプレーでスタジアムを沸かせたが、その熱が十分にあたたまる前に一気に水を浴びせたのは、山形・宮阪のワンプレー。「ロングボールで(バイタルエリアが)空いてた。そういうところを埋めていければなと思ってポジションを取っていたら、いいタイミングでボールが入ってきた」とこぼれ球をファーストタッチで絶好の位置にセットし、右足を振り抜いた。反応が遅れたGK加藤順大は、不規則に変化するボールを腕の遮断機で止めきれなかった。
その直後、20分以上を残してペトロヴィッチ監督は最後のカードを切る。矢島に代えて関根貴大を投入。選手交代を重ねた浦和の攻撃が活性化されたわけではなかったが、ここでもワンプレーがスコアに結びついた。76分、こぼれ球に反応した邦本が左サイドで左足ボレーを一閃。加速度がついたボールにGK常澤聡も伸ばした手で触れることまではできたが、その手を強引に弾いた軌道はファーポストに鋭角に跳ね返り、そのままゴールマウスの内側へ。「ペトロヴィッチ監督から『自分のいいところを出して点を取りに行け』と言われた」というアドバイスどおり、クラブの公式戦最年少デビューを果たしたその試合で大仕事をやってのけた。
この同点ゴールを境に、試合はテンポを一気に上げるが、優位に立ったのは球際で勝る山形。77分、キムから送られたクロスに中島のシュートはミートできなかったが、80分、右タッチ際で2人に囲まれた宮阪が隙間からボールを出すと、受け取ったロメロ フランクはゴールへ向けてドリブルを開始。ペナルティーエリア手前まで持ち運んだところで、味方が左右にラストパスのコースをつくってくれていたが、「得点の前のプレーで自分のミスで失点してしまったので、取り返そうとした」と切り返しを入れてシュートコースを開けると自ら左足を振り抜き、低く鋭いシュートを突き刺した。
三度リードされる展開となった浦和は反撃の機会をうかがうが、前線に4人が張り続けたことで、むしろ切り返された際に中盤のスペースが大きく空いた状態に。山形にとって、フリーの選手を見つけてパスをつなぐことは難しいことではなかった。山形の守備での集中力も依然として高かったが、3点目を挙げた直後にセンターバックの西河翔吾が足に違和感を訴えるなど山形の各選手の消耗は激しく、予断を許さない状況のまま突入したアディショナルタイムで、中島に代わって登場したのが、浦和で11年まで10シーズンプレーした堀之内聖。「ピッチに入ったのはああいう時間帯(後半アディショナルタイム)でリードしていたので、そのまま終わらせるためにプレーした」と十分に役割を認識していたチーム最年長は、右サイドのスペースに飛び出して収めたボールを梅崎に奪われ、奪い返そうとしてファウルになるなど、短い時間ながら激しさも存分に出し、かつてのチームメイトやサポーターに健在ぶりをアピールした。最後まで試合を捨てない浦和は、GKの加藤がハーフウェイラインを越えて攻撃に参加する執念を見せたが、3度目の同点ゴールはならなかった。
関口訓充は「あまり試合に出ていないメンバーでやっているのでコンビネーションについては仕方ないけど、言い訳にはならない。しっかり90分を通して相手より上回れなかったのが結果に結びついていると思う」と潔く語ったが、敗戦という結果が出た以上、中2日で行われる鹿島戦に重きを置き過ぎたとの指摘は避けられない。そして、その鹿島戦はなお一層落とせない試合として位置づけられることになった。「彼らはこういった敗戦のあとでも、必ずそれを糧に奮起してくれるんじゃないかと思っています。常に敗戦というものは悔しい結果であると思いますけれども、ただ負けているものを私はネガティブにとらえません。負けたなかにも必ず学ぶべきものがあり、そこから我々が学ぶことができれば、それはポジティブに変えることができる」。ペトロヴィッチ監督の言葉を胸に、決戦の土曜日を敵地で迎える。
勝った山形の4回戦は11月20日。リーグ戦のラスト2節の間に組み込まれるタイトなスケジュールになるが、奥野監督は「今日の最大の目的は、4回戦にコマを進めるというところ。それを本当に達成できたということで、非常に満足してます」と勝ち上がれたことをまずは喜んだ。その3連戦をエキサイティングなものにするため、すでに次の照準は日曜日のアウェイ札幌戦に切り替わっている。
以上
2013.10.17 Reported by 佐藤円
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