９月21日のことだ。筆者が千葉のクラブハウスのプレスルームにいると、通りかかった深井正樹選手が「元気ですか？」と声をかけてくださった。筆者が「ジェフ（千葉）の順位が上がらないと元気になれないなぁ〜」と答えると、深井選手は「それは僕に言われても困りますね」と苦笑いしながら言った。今季の深井選手は負傷のため別メニュー調整の期間もあったが、公式戦のスタメンは一度もなく、９月21日時点でＪ２リーグ戦はわずか９試合出場で出場時間は115分だった。「思うように試合に出られていないので、今のチーム状況を自分がどうにかできる立場に自分がいなかったから」という思いでの発言だった。
だが、10月13日の天皇杯３回戦で、深井選手は千葉が０−１とビハインドの状況下の75分に交代出場すると、Ｆ東京のディフェンスラインの裏に飛び出そうとするなど必死に走り回った。そして、90分、ゴール前へ走りこんで町田也真人選手がヒールパスで落としたボールを拾ってシュート。土壇場で同点ゴールを奪い、気迫あふれる表情でガッツポーズを見せた。その後は両チームとも延長戦でも得点できずにＰＫ戦になると、先攻の千葉の２番目のキッカーとなった深井選手はＰＫをゴールマウスの左上へ見事に決めた。
結局、ＰＫ戦は５−６で千葉の天皇杯４回戦進出はならなかったが、試合後の深井選手は「０−１で負けていたので、１点取ってやろうという気持ちでやっていました。点を取れたという部分だけは良かったと思います」と話した。そして、天皇杯３回戦の翌日、クラブハウスで会った時に筆者が「昨日は得点していて深井さんらしいプレーも見られたので、このあとの深井さんの活躍に期待しちゃいますよ」と言うと、深井選手は「期待に応えられるように頑張ります」と笑顔を見せた。ガッツあふれるプレーで味方を鼓舞し、千葉サポーターを盛り上げる深井選手が『戻ってきた』と改めて感じられた。

前述の天皇杯３回戦では、山口慶選手が今季の公式戦で初めてスタメン出場した。今季の山口慶選手はＪ２リーグ戦では第36節終了時点で23試合にベンチ入りしたものの、出場した試合はわずか５試合。しかも、逃げ切りを図りたい展開での守備固めとしての出場ばかりで出場時間は11分だった。足を傷めて８月４日の第27節からはベンチ入りせず、リハビリが続いていたが、回復後の公式戦初出場が天皇杯３回戦となった。
山口慶選手は攻守両面での気の利いたポジショニングが持ち味の一つだが、天皇杯３回戦でも守備ではＦ東京のボールホルダーにプレッシャーをかけつつ穴になりそうなスペースを埋め、攻撃では前線に入れたロングボールのこぼれ球を拾おうと思い切りよく前に走りこむ姿が目についた。試合後に「自分が入った時には後ろの人や前の人のバランスを見て自分が助けにならないと自分が入った意味がないので、それは心がけてやっていました。（こぼれ球を拾おうと前に出て行ったプレーについて）自分は運動量を求められているし、他の人のほうがうまいので、そういうところをやっぱりやらないと自分の良さが出せないので」と話した山口慶選手は、久しぶりのスタメン出場については「ＰＫ戦で負けてしまったので。良くやった感は多少ありますけど、こういうチームにＰＫ戦までいかずに勝ちたかったですね。Ｊ１昇格プレーオフまでの（Ｊ２リーグでの）戦いのほうが大事かもしれないですけど、こういうチームに勝って勢いに乗るのもすごく大事なことだと思います。このチーム（千葉）はＪ１に行かないといけないと思うので」とキッパリと言った。
余談になるが、山口慶選手が『気が利く』のは試合でのことだけではない。例えば、千葉に加入直後の練習で目についたのが、休憩になった時にグラウンドのあちこちに飛んで行ってしまったボールを集める姿だった。本来はマネジャーの仕事だし、ルーキーや若手選手ならば分からないでもないが、当時プロ９年目で27歳になろうとする山口慶選手なのに自分から少し離れたところにあるボールをわざわざ取りに行っていたのだ。周りの状況をよく見ていて人を助ける気配りができる性格だからこそのあのプレーなのだと思った。

Ｊ２リーグ戦もいよいよ残りは６試合。チームが全ての力を出し尽くさなければ、Ｊ１昇格は達成できない。深井選手と山口慶選手の『復活』は千葉の大きな力となるはずだ。

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2013.10.16 Reported by 赤沼圭子