前節の名古屋戦は内容的に乏しい物になってしまった。中継を見る立場だった中村憲剛の「この前はオレは一視聴者だったから。ハラハラしっぱなしだったですよ」との言葉を伝えるまでもなく、川崎Fは大苦戦した。

基本的に川崎Fは相手を圧倒して勝ちたいチームだ。常々、風間八宏監督は相手は無関係だと口にしており、自分たちがやるかどうかだと述べている。自分たちがやるべきことをやり続けることができれば、相手を圧倒するサッカーが実現できる。そしてそんな風間監督の理想は、選手たちにも浸透している。チームが目指すサッカーが結果として出た典型例が広島戦で、中村憲剛が決めた先制点だった。相手を圧倒したパスワークからの得点は、川崎Fのチーム作りの進化を思わせた。

しかし、チーム作りの難しさを鳥栖戦の敗戦で痛感させられ、名古屋戦では相手に圧倒される苦しい戦いを強いられた。前線からのプレスを受け、ペースを奪われた名古屋戦は何度と無くゴールに迫られる厳しい戦いになる。しかしそこでチームを救ったのが大久保嘉人のカウンターだった。この名古屋戦の試合後、森谷賢太郎は「苦しい試合でしたが、意思統一できてましたし守り切るところは守り切る。泥臭くできたので、それは良かったと思います」と前向きに振り返っていた。

相手を圧倒するパスワークを完成の域に近づける一方で、カウンターの形も作られつつある。これらの事実から導き出される結論は、川崎Fが攻撃のバリエーションの多様化を実現しつつあるということだ。この点については、稲本潤一が「一つのパターンだけではなくなっている感はある。攻撃の幅は広がっているし、もっともっとできるような練習もしている」と話す。もちろん得点ランキングトップの大久保の決定力に頼る部分は多いにせよ、時に相手を圧倒し、悪いなら悪いなりに勝ちきる。そういう力強さはシーズンを勝ち進む際に必要なものであり、そうした試合ができつつあるのはいい傾向だ。

そんな川崎Fがホームに迎え撃つのは、ACLの中国遠征帰りの柏である。逆転での決勝進出を目指し、広州恒大とのアウェイマッチに臨んだ柏は、広州恒大の外国人選手の得点力に圧倒され0−4の完敗。失意と疲労は相当なものだろう。また元々負傷していた大谷秀和と増嶋竜也の戦線からの離脱が報じられている。これらのネガティブな情報について、川崎Fがアドバンテージとして捉えても不思議ではないが、選手たちはそうは考えていなかった。

たとえば中村は「相手がACL帰りだということは関係ない。相手はやるから。レイソルはいつでもしっかりやってる」と語気を強めて油断を戒めていた。稲本潤一は「過密日程でやっているチームだと思いますし、疲労は絶対にあると思う」と話しつつ、結果が出ていないことを踏まえだからこそ「勝ちたいはずだ」と警戒の言葉を忘れなかった。そうした相手の勝利への貪欲さを認めつつ稲本は「（柏の）勝利のための勢いやパワーを跳ね返すだけの力は今、フロンターレにはあると思う」と発言。そして「ホームですし、向こうが疲れているとかは関係なく自分たちのペースでやっていければ、自分たちのサッカーがやれれば勝てる試合だと思います」と言葉をつなげた。

柏は、中村や稲本が警戒するように勝点3への気持ちを切らすことはないだろう。それどころか、厳しい現状を発奮材料に変えているはず。そもそも柏には攻撃を牽引する工藤壮人や田中順也、ジョルジ・ワグネル、クレオといった高いクオリティを誇る選手がいる。また、近藤直也、鈴木大輔を中心とした守備陣は守り切る固さを持っている。アウェイからの遠征帰りだからといって、決して侮っては行けない相手なのは間違いない。

とはいえ、開幕戦での敗戦や、2011年から4連敗中の相手だということもある。リベンジの意味を込め、杉山力裕に「倍返ししたいのでは？」と質問したところ、苦笑いしつつ杉山は「倍返しは難しいかもしれませんが、『おもてなし』はしません」と絶妙な返しをして見せてくれた。等々力来場の手土産として、勝点を持ち帰らせるような「おもてなし」はまさに不要。ただしそこで必要なのは肩肘を張った戦いの姿勢ではなく、平常心で、自分たちのサッカーと向き合う姿勢であろう。技術が上がれば上がるほど、見えてくる情報が増えていく。その中で落ち着いた試合運びを見せてほしいと思う。試合の行方は自分たちの手のひらの中にある。

以上

2013.10.05 Reported by 江藤高志