「富士山ダービー」と呼ばれることもあるこの試合。両チームともその呼び名はほとんど意識していないが、この試合に勝ちたい、勝たなければいけないという意識は非常に強い。リーグ終盤にさしかかって、どちらも今節での勝点が非常に大きな意味を持つからだ。

ホームの清水は、天皇杯も含めればアイスタでは5月から7試合負けがなく（6勝1分）、リーグ序盤の状況とは大きく変わってきている。最近はしばらく13位にいるが、上位との勝点差は広がっておらず、7位の川崎Ｆとは4ポイント差、4位の鹿島とは9差。ただ、ACL出場圏内の3位・浦和とは12ポイント差がある。チームとしても「ACL出場をあきらめていない」（ゴトビ監督）という目標があるため、残り8試合で少しでもその可能性を高めるために、4位に上がることを最低限の目標としたいところだ。
もし、ここから8連勝してリーグ戦を終えれば、勝点は59に達するので、可能性は大いにある。そして、8連勝できるだけのポテンシャルも、今の清水には間違いなくある。前線は、ラドンチッチ、大前元紀、高木俊幸と、突破力・決定力とも高い3人が揃い、村田和哉という頼もしいスーパーサブもいる。そして中盤には、杉山浩太、本田拓也、村松大輔と攻守に力を発揮できる3人が揃い、パスや崩しのバリエーションも増えている。攻撃に関してはまだ伸びしろがあり、1試合平均で2点以上取る力は十分にあるはずだ。
あとは守備が安定し、失点を1試合あたり1点未満に抑えられれば、連勝を重ねていくことができるだろう。自分たちがボールを支配する時間が長くなったこともあり、その兆しも確実に見えてきている。

その意味では、この甲府戦は大きな試金石となる。
前節の横浜FM戦では、首位を走るチームに対して清水はアウェイで主導権を握る戦いができたが、開始早々の落ち着かない時間帯に失点を喫し、多くのチャンスを決めきれずに（バーやポストを3回直撃）0-1で敗れている。
甲府が狙っているのも、まさにそういう勝ち方だろう。第18節の仙台戦でシステムを4-4-2から3-4-2-1に変更し、第19節以降は4勝3分1敗と好成績を残している甲府。守備の際には5バックにして、DFライン5枚、中盤4枚でブロックを作って手堅く守っている。その結果、ここ8試合で7失点（1試合平均0.875点）という堅守を構築し、それが今の成績につながっている。
そして、前線に1人残ったパトリックがカウンターで力を発揮して、ここ5試合で3ゴール。調子を上げてきたエースは、189cmの高さとスピードがあり、セットプレーでも恐い存在だ。したがって甲府としては、守備で粘って0-0の時間を長くすればするほど、どうしても勝点3が欲しい清水の焦りを誘うことができ、得点のチャンスも増える。
甲府にとっては、アウェイならば勝点1でも大きな価値があり、今やっているサッカーに徹すれば良いという状況なので、心理的なやりやすさもあるだろう。

そこを清水がいかに攻め崩すかというのが、この試合最大の見どころ。ポゼッションではやはり清水が上回るだろうが、その中でどれだけ甲府の守備を揺さぶるような効果的なパス回しができるか。そして、限られたスペースに向けてどれだけ精度の高いラストパスを送れるか。その他にも微妙な駆け引きがさまざまな場所であるだろうし、球際の1対1や運動量でどちらが上回るかという個の戦いも重要になる。
「甲府もハードワークしてくるチームだけど、自分たちも負けていないし、最近は要領が良くなったというか、チーム全体として動けていると思う。だから運動量は上がるけど、試合中にそこまで疲れてはいない。勝手なことをする人がいないし、チームとして戦えていると思う」（河井陽介）という部分も、清水が最近良くなってきたところだ。
そう考えると、焦ったり自信を失ったりすることなく、精神的にも肉体的にもタフに戦い抜けるのはどちらかという部分も大きな見どころと言える。
リーグ戦での対戦成績は、ここまで清水が6勝1分0敗、得点15／失点1と圧倒しているが、この試合に関しては、そうしたデータは当てにならない。自分たちが信じる戦い方を貫き、それを結果につなげること。どちらにとっても、そこが何よりも力の見せどころとなるはずだ。

以上

2013.09.27 Reported by 前島芳雄