チャレンジャーは、広島だ。昨年王者とか、前半戦首位だとか、現在３位とか。そんなことは忘れた方がいい。
対戦相手の新潟は、後半戦の首位（5勝1分2敗）を走る好調ぶり。一方、広島は現在3連敗と、勢いは失速中。こんな状況で「受けて立つ」ことなど、できるはずもない。

「結果には当然、それなりの理由がある」。
佐藤寿人は、新潟の躍進を必然と見ている。
「もちろんハードワークがベースにあるチームだけど、それだけで勝てるほどＪリーグは甘くない。新潟の強さは、その切り替えの鋭さ。攻撃→守備はもちろん、特に目に付くのは守備→攻撃の切り替えの速さですね。ボールを奪ってからの鋭い速攻で相手を上回り、シュートも多い。そこが、後半戦首位の原動力だと思います」。
エースが指摘する新潟の特徴は、実は新潟の伝統。特に柳下正明監督が昨年就任以降、その精度を磨き上げたスタイルである。今季の前半戦、決して新潟は結果を出せたわけではなかったが、それでも指揮官は自身の信念を貫き、信じる道を歩み続けた。「続けることの素晴らしさを、僕は新潟の戦いぶりから、教えてもらっています」と広島・森保一監督も語る。

一方、広島の戦績が芳しくない理由は、何か。佐藤は「いい攻撃ができていないから、失点も増えてくる」と攻守の関連性を語る。Ｆ東京戦と川崎Ｆ戦、この２試合での分水嶺となった「２点目の失点」は、共に広島が攻撃に出たところをシュートで完結することができず、そこからのカウンターで失ったもの。「ボールを保持していても、攻撃がシュートにつながっていない。安易にボールを失ったり、シュートで終われないことが、失点に直結している。いい守備は、いい攻撃から生まれるんです」とエースは指摘する。

実際、後半戦は８試合９得点と何とも寂しい得点数。３連敗中はわずか１得点と、攻撃を看板に掲げてきたチームとは思えない苦境にある。中央を固めて１トップ２シャドーを徹底マークし、サイドにふたをして自由を許さない「対広島方程式」を打開するだけの攻撃を、今の広島は見せられていない。

ただ、サッカーにおいて、攻撃は守備と一体である。佐藤の言うように「いい守備はいい攻撃から」は真実ではあるが、逆もまた真なり。球際やセカンドボールの競り合いで後手を踏み、高い位置でボールを奪うことができず、必然的にラインも下がってしまう。クリアされたボールを拾えないから、波状攻撃を見せることができない。いい守備がなければ、攻撃に迫力を付加することは難しい。
「大切なのは、仲間のためにプレーするという意識」と指摘するのは広島のドクトルだ。
「サッカーはミスのスポーツ。自分のミスを自分で取り返すのは当然だけど、仲間がミスをすることだってある。その選手のために、チーム全員が働けるか。戦術・技術以前のところに、解決の糸口はあると思います」。
森崎和幸は川崎Ｆ戦後、「生きるか、死ぬか。１試合１試合をそれだけの覚悟を持ってやれるかどうかが、これからの戦いを左右する」と言い切った男だ。そして同時に「試合に出ている選手は、出ていない選手の分まで頑張り抜くのが責任」とも言明した。サッカーとは、個人ではなくチームの戦い。「自分のため」ではなく「仲間のため」に全力を尽くす、その姿勢が大切だとベテランは説く。「後ろの選手は前の選手のために。前は後ろのために。そこを貫くことが全てでしょう」。

新潟は浦和戦で敢行したような、オールコートでのマンツーマンディフェンスを敷いてくる可能性もある。その守備に手こずり、半端な形でボールを失うことがあれば、前線には川又堅碁や田中亜土夢、成岡翔や田中達也などのタレントがいる。一瞬でも気を許せば、Ｆ東京戦や川崎Ｆ戦の二の舞になりかねない。

しかし、カウンターを恐れてばかりいては、勝利は遠くに逃げていく。「どこかでリスクを冒さなければ、トライしなければ、何も生まれない。チャレンジすることを恐れず、ゴールに直結する動きを見せることが重要」とエース・佐藤寿人は言う。森崎和幸も「自分自身も前にポジションをとることで、ボールを高い位置で奪いたい。リスクもあるが、受け身なサッカーにならず、攻撃に厚みを出す必要があるから」と決意を示す。

３連敗を喫してもまだ、首位・横浜FMとは勝点４差。まだ、広島に運はある。その運をホームチームが力強く引き寄せるか。それとも好調・新潟が広島の「挑戦」を跳ね返す勢いを見せつけ、上位進出への確かな手応えをつかむか。2003年９月23日、広島と新潟はＪ１昇格を争い、歴史的な熱戦を戦った。あれから10年。Ｊ１に舞台を変え、両雄は再び、情熱的な戦いを演じる。

以上

2013.09.20 Reported by 中野和也