岡山のホームゲームだった。松本のサポーターはバックスタンドのアウェイ席を埋め尽くすだけでなく、メインスタンドにも多く詰めかけ、その応援はやはり迫力があったけれど、この試合は最初から最後まで、ファジアーノ岡山のホームゲームだった。
前夜から降り続く雨は一時止みそうな気配を見せながら、キックオフ前に本降りになってしまった。「固すぎもせず、柔らかすぎもしない」と岡山の選手に表されるkankoスタジアムのピッチに水たまりはなかったが、動きのたびに水しぶきが上がる状態。しかし、「ボールがイレギュラーな動きになることはなかった」とFW押谷祐樹。
同じ【3−4−3】のフォーメーションのチームとぶつかった今季の対戦の中でも、際立って激しいマッチアップがピッチ上のそこここにあった。岡山はシャドーの金民均が先週の天皇杯2回戦に続いて変則的な動きで前線をかき回し、奪ってシャドーの石原崇兆、両ワイドの田所諒、田中奏一、トップの押谷と繋ぎながらペナルティーエリアにボールを運ぶ。また、中盤で奪ったボールはボランチの千明聖典、島田譲がバランスよく絡んで素早く組み立てていく。
松本は、シャドーの船山貴之がダイアゴナルに走り、岩上祐三が中に切れ込んでトップの塩沢勝吾へ。また低い位置で奪ったボールはロングボールで打開を図るなどシーンごとの意図が明確だった。チャンスは目まぐるしく両チームを行き来したが、前半19分、岡山・押谷がカウンターから相手3人をひきつけてドリブルで上がり、石原にパス。これを石原が左足で決めて先制に成功する。「シュートがボレー気味だったので、雨に助けられたところもある」と石原は言うが、きれいに決まったゴールだった。
しかしその3分後の前半22分、松本がCKを得てショートコーナーから船山がフリーで持ち込んでゴール。「こんなにスムースに行けていいのか、というくらいスムースだった」と船山。互いのゴールがひとつずつ決まってからは、さらに球際のバトルは激しくなった。松本の喜山はキレを増して攻守に動き、岡山の金民均は飛び出して危ういパスを拾い、スペースを埋めて繋ぐ。
試合後、喜山が「熱く、冷静に。この両方が出来ないと」と話すほどに熱いゲームだった。サイドの攻防は熱かったが、岡山は千明、島田の奪って繋げる冷静さが試合運びを落ち着かせた。落としたボールがどこに行くか読みづらい状況の中、前半40分には岩上のシュートがポストを叩き、続く船山のクロスはGK中林洋次がキャッチ。1−1で前半を終え、後半になってからも同じようなシーンが続き、松本のセットプレーを岡山がしのぎ続けた印象がある。が、後半の松本がCK8本、FK6本を得たのに対し、岡山はCK2本、FK9本とそれほど数は変わらない。そして後半10分、島田のFKのこぼれ球を、ゲームキャプテンの近藤徹志が右足で決めて、再び岡山がリードした。
松本のセットプレーのフィニッシュは精度が高く、ほとんどが枠内に来たが、中林の好セーブが続き、ゴールライン上で千明がこともなげな風に足ではじき返す場面もあり、岡山がしのぎ切った。両チームの監督は、ほぼ同じ試合後の感想を話したが、岡山・影山雅永監督の言葉を引用すると、「最後の最後まで必死に、本気の戦いをやった上で、我々の方がちょっとだけ必死さで上回れたのかなと思う」。
岡山のJ2で100試合目のホームゲームは、選手と観客によって作り出されていった。先制点のシーンで押谷がボールを持った際に湧き上がった歓声は後半31分、FW久木田紳吾が、後半41分、FW三村真が入った時間にも緩むことなく、止むことのない手拍子は高まったままスタジアム全体に反響した。まず選手が観客を乗せ、観客が選手を乗せるポジティブなスパイラルが渦巻く、岡山のホームゲームらしいゲームだった。
以上
2013.09.16 Reported by 尾原千明
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