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【J1:第25節 F東京 vs 浦和】レポート:F東京が赤の呪縛から解き放たれる。口下手な男が導いた3278日ぶりの勝利(13.09.15)

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F東京は数えるのも、気が遠くなるほど続いた赤の呪縛からようやく解き放たれた。予想通りのハイレベルな試合展開。1−0、2−0、2−1、2−2と点数が刻まれる度に、酸素が奪われてドクドクと脈打つ感覚がたまらない試合だった。最後は国立に愛された男がゴールを決め、F東京が浦和からリーグ戦では3278日ぶりに勝利を挙げた。

試合展開を振り返ると、前半8分、右サイドからのFKを太田宏介がエリア内に落とし、チャン・ヒョンスがこれを頭で合わせてF東京が先制した。さらに36分、同じような位置から今度は東慶悟が蹴ったボールに森重真人が飛び込んで幸先よく2点のリードを奪った。
後半に入って浦和が反撃に出る。51分、相手のミス絡みで得たFKを槙野智章が頭で合わせて1点を返す。その2分後、那須大亮が右サイドからのクロスを頭でネットにたたき込んで同点へと追いついた。
勝負を決める3点目の絶好機は浦和が先だった。60分に、左サイドから原口元気がエリア内に切り込んで右足を振った。これはGK権田修一に阻まれ、シュートは枠を逸れた。その3分後、今度はF東京にチャンスが舞い込む。渡邉千真のスルーパスに抜け出した東がGKと1対1に。ただし、GK加藤順大も間合いを詰めてこれを防ぎ、ゴールを許さない。熱気を帯びた試合は、これまでと同じくスリリングな展開となっていく。

このシーソーゲームを作り上げた、両クラブのこの日の戦術的なやり合いも目を引いた。F東京は試合開始から浦和と同じ3−4−2−1の並びでミラーゲームに持ち込もうとした。しかし、浦和は大胆な位置取りでそれを阻止した。
ペトロヴィッチ監督は少し鼻を高くして言った。「我々はボランチの選手を落として3枚で回しながら、森脇と槙野を高い位置に置いた。サイドから数的優位をつくってそこから進入していく意図があった。相手は、なかなかボールの取りどころが限定できていないように思えた」。浦和のサッカーは、前回対戦からより無駄が削ぎ落とされていた。攻撃時は1トップ2シャドーに加え、両ウイングバックが高い位置に張り出して5トップを形成する。そこに、3バックの両脇が極端にポジションを上げて両ウイングバックのさらに外から攻撃機会をうかがった。ダブルボランチは、最終ラインまでポジションを下げてリベロと3枚で深さを使って相手の隙ができるまでボールを回した。

これに、F東京の守備は戸惑った。最終ラインは5バックとなり、相手の5トップと同数を揃えた。だが、その外に構える浦和の両ストッパーを誰が付くのかがネックとなった。2シャドーの選手がサイドに開いてマークすれば、相手最終ラインの3枚に対して1トップの渡邉千真が1人でプレッシャーを掛けなければいけなくなる。ボランチの選手がそのプレスに加わってしまうと、中央が手薄になり、縦パスを通されてしまう。逆に、外を捨てて中央を固めると、両サイドともに常に局地的な1対2の数的不利な状況が出来上がってしまう。この浦和の新たな攻撃手法に対する事前対策は前日練習の1日のみ。付け焼き刃の策を講じても浦和には通じないと判断したポポヴィッチ監督は、前半20分でミラーゲームを解いた。
その理由をポポヴィッチ監督はこう語った。「浦和が一番強さを発揮するのは、相手チームの規律が崩れて組織立った守備ができていないとき。そういう状態になった相手を攻略することに、非常に長けている。スペースの使い方もうまいし、カウンターの精度も高い。浦和にボールを握られていた時間帯に、我々はチーム全体をコンパクトに保って組織をつくりながら体を休めるということを考えなければいけなかった。そう考えてシステム変更に踏み切った」

F東京の潔い決断が奏功した。従来の4−2−3−1に戻してからは最終ラインの4枚と中盤の4枚でブロックを作った。相手の3枚に対して1トップとトップ下がプレッシャーを与えてパスコースを限定させる。サイドの守備もボールサイドは同数で守り、大外に対してはボールが出たときにスライドして守るやり方へとシフトさせた。無理してボールを奪いに行けば浦和の術中にはまる。が、その時点でリードを奪っていたこともプラスに働いた。組織を崩さなければ、よほど丁寧なビルドアップを実践できるチームでなければ簡単に破られる心配はない。怖いのはミスからの失点のみだった。これでF東京の混乱は収まったが、これによって互いに隙を見せない緊迫した展開が生まれた。

懸念されたミス絡みの失点でF東京に動揺が走った。そこを見逃さず、浦和は同点にまで持ち込んだ。ただ、時間の経過とともに、浦和は次の一手がぼやけてしまった。槙野は「2点追いついて勝点1でいいのか、それとも勝点3を奪いに行くのかが曖昧になった」と述懐する。途中交代で入った鈴木啓太はすばらしいインターセプトからカウンターの機会を見出したが、「カウンターのリスクがあるので、チャレンジを戸惑った瞬間もあった」と言う。逆に、浦和はこの試合、何度もセットプレーから隙を与えていた。山田暢久は「ラインを早く下げるか、保ちたいかでそれぞれが食い違った。それが最後までバラバラだった」と話す。結果的に、フリーの選手をつくってネットを揺らされた。隙が生まれるとすれば、そこだった。

二の足を踏んでいる浦和に対し、F東京の前線で「勝つことだけしか考えていなかった」男はボールが届くのを待ち構えていた。平山相太は味方の選手がルックアップするたびに、手を挙げてボールを呼び込み続けていた。「勝つことを目指していた。2−2に追いつかれても、サポーターも勝ちを求めていたから」。81分、米本拓司がその平山にボールを届けたが、トラップが流れてしまい、チャンスを逸した。しかし、諦めない男に、最後のチャンスが待っていた。
アディショナルタイム突入直前の90分、中盤でFKを得る。太田がボールをセットし、前線へと蹴り込む。このボールに背番号「13」は体を投げ出して飛び込んだ。不格好だったが、泥臭く伸ばした頭に当たったボールは地面を蹴ってゴールに飛び込む。それを見た平山はゴール裏に駆け寄り、観客席近くまでよじ登った。
「去年、一昨年と自分のプレーが見せられなかった中でも応援し続けてくれた。それでもずっと応援をしてくれた。あのゴールの時点で勝利を確信したわけじゃないけど、近づいた。だからサポーターと喜びを分かち合いたかった」
エースと目される度に、けがをして2年を棒に振った。待っていたのは、昨年から続くベンチ生活。その間も自分がタッチライン際に立つ度に、ファン、サポーターは声を嗄らして応援を続けてくれた。それに「ありがたい」と言い続けた。口数は多くないが、報いたいとずっと思ってきた。だから青赤の塊の一番近いところまで行って叫んだ。すばらしい試合のフィナーレとしては、最高の男が奪ったゴールだった。国立男の23発目は、行動は奔放だけど、口下手な男の感謝の言葉をこめた得点だった。

噛めば噛むほどに味が出る。試合をこなすたびに、趣や新たな面白さも発見できる。良質なサッカーをする2クラブが、ミックスアップされてより試合を楽しくさせる。3万5千人弱を集めるに相応しい試合となった。来年の試合スケジュールが発表されたときに、このカードの日付をスケジュール帳に書き留めるか、記憶に刻む人も今年以上に増えるはずだ。より良いサッカーを育てていくことと、それに共感を覚える人を増やすことでクラブは育っていく。Jリーグはそれを身近に感じ、一緒になって楽しめる。この日、ピッチで対峙した2つのクラブは、そのあるべき方向性を指差してくれていると、僕は思う。

以上

2013.09.15 Reported by 馬場康平
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