JFL所属の藤枝MYFCが待望の天皇杯初出場を果たし、1回戦を勝ち抜いたことによって予想以上に早く実現した“もうひとつの静岡ダービー”。藤枝には清水に縁のある選手も多く、静岡県民にとっては最高の組み合わせとなった天皇杯2回戦がいよいよ始まる。

藤枝MYFCは、サッカー王国・静岡の中でも元祖サッカーどころである藤枝市を中心とする志太・榛原地域をホームタウンとし、2009年にJリーグ入りを目指してゼロからスタートしたクラブ。創設当初から清水エスパルスで長く活躍した元日本代表・齊藤俊秀を選手兼コーチ（現在は選手兼監督）として迎えて大きな注目を集め、静岡県1部リーグからのスタートで順調にカテゴリーを上げていって現在はJFLの10位。すでにJリーグへの準加盟申請を済ませており、来季から新たに始まるJ3リーグの一員となることを目指している。つまり、正式にプロチームとなることを目前にした急成長中のチームだ。
さらに、今年からはもう1人の元日本代表・市川大祐や、清水ユース出身の藤牧祥吾も加わって、清水とは非常に縁の深いチームでもある。市川は、今後もより長く選手生活を続けていくために今年初めに右膝の手術を行ない、これまで地道なリハビリを続けてきたが、最近の試合でようやくベンチ入りを果たし、藤枝での初出場も着実に近づいている。もちろん、この試合でそれが実現する可能性もあるだろう。齊藤も天皇杯では監督ではなく選手として登録しており（兼任の登録はできない）、自ら出場する意欲も十分。齊藤も市川も、わずかな時間であっても思い出深いアイスタで、清水サポーターの前で久しぶりにプレーしたいという気持ちは非常に強いだろう。
また藤牧は、今年藤枝に加わってから自ら志願してFWからセンターバックに転向し、監督であり同ポジションの最高の手本である齊藤の下で急成長して、現在はセンターバックの主軸として定着。空中戦が非常に強く、セットプレーの得点源としても大活躍している。彼もこの試合にかける意気込みが人一倍強い選手の1人だ。

一方、藤枝の初挑戦を受ける清水のほうは、この試合の前後に1週間ずつインターバルがあるため、ケガ等を抱える選手を除けばリーグ戦とあまり変わらないメンバーで戦うことをゴトビ監督は示唆している。「リスクを冒すことなく試合に勝ちにいく。しっかりと仕事ができるメンバーで臨む」（ゴトビ監督）という姿勢だ。
藤枝市で生まれ育ち、地元の藤枝東高で高校選手権に準優勝した河井陽介は、「自分は最後の最後は藤枝MYFCでプレーしたいと思っているので、陰ながら応援しているチームだし、一度は試合を観てみたいと思っていました。その前に自分たちが対戦するとは思ってなかったので、やりにくい面もありますけど、本当に楽しみ。自分も試合に出たい気持ちが強いし、しっかりと勝ちたいです」と語る。プロ入りした頃から齊藤に多くのアドバイスを受けていた平岡康裕や、焼津市出身の村松大輔など、清水側にもこの対戦を楽しみにしている選手は多い。
チーム自体もリーグ戦では2連勝中で上り調子。その勢いを次につなげる意味でも、良い試合をして確実に3回戦に進むということが清水に求められるミッションだ。

もちろん、地力や選手個々の力では清水が1枚も2枚も上手だが、だからといって清水が簡単に勝てるとは限らないのが天皇杯のおもしろいところ。練習試合では藤枝が勝ったこともあり、清水にわずかな油断や心のスキがあれば、足下をすくわれる可能性は十分にある。藤枝の前線には、西山貴永や久富賢といった運動量豊富でスピードのある選手がいて、清水が危険な位置でミスを犯せば、一気にゴールまで持っていかれる危険性もある。前述の藤牧に加えて齊藤もピッチに入れば、セットプレーの恐さもかなりある。
何も失うものがなく、純粋なチャレンジ精神で思い切りやれる藤枝がどこまで健闘するか、あるいは大番狂わせを起こすのか。それも大きな見どころとなる。

今回が公式戦での初対決だが、今後少しずつ対戦が増えていくであろう、またそうあってほしい清水と藤枝のダービーマッチ。その歴史の1ページ目を飾る戦いには、残念ながらテレビ中継はない。貴重で見どころに満ちた2回戦屈指の好カードを見届けるためには、アイスタに足を運ぶしかないが、観に行って後悔することはけっしてないはずだ。

以上

2013.09.06 Reported by 前島芳雄