ベルデニック前監督の後を小倉勉テクニカルダイレクターが継ぐ形で、大宮の監督交代劇は終息を見た。劇薬は奏功せず、岡本武行GMが監督代行を務めた前節・アウェイ鳥栖戦は先制しながら後半に逆転負けし、2008年以来となる６連敗。小倉監督の初陣、ホームNACK５スタジアム大宮に迎えるのは現在日本勢唯一のACLベスト８に残り、Ｊ１リーグ戦ではここ７戦負けなしの柏。「初陣というより、残り13試合のうちの一つ。(柏は)相手に取って不足はない。どこまで力を出せるか、良い腕試しになる」と、新指揮官は飄々としつつ、静かに闘志を燃やしていた。

20日の練習から指揮を取った小倉監督は、まずは「選手たちに熱く語りかけた」(北野貴之)という。「初練習前のミーティングで『自分は勝つために全力を注ぐ。そのためにメンバーを考慮するが、先発から出る人、ベンチに座る人、ベンチに入れない人が絶対にいる。その状況でもチームで一つになってやってくれるか？それができないなら、俺とは一緒にやれないから、そう言ってくれ』と。熱く心に響くものがありました」
６連敗中の危機感も相まって、練習の雰囲気は引き締まり、かつ前向きになった。新加入の現役オーストラリア代表センターバック、ルーカス ニールも練習に加わり、早速選手の名前を憶えてコーチングするなど存在感を発揮している。柏戦では、この上向いてきた流れを勝点という目に見える形にしたい。

とはいえ今シーズン積み上げてきた大宮のサッカーそのものが、この短期間に大きく変わることはなさそうだ。「一番のポイントは選手たちの自信の問題」(小倉監督)であり、まずはそれを取り戻すことが大事で、そのためには勝利、少なくとも連敗を止めるしか方法はない。ただ、「最大の問題は失点の多さ」(ノヴァコヴィッチ）なのは間違いなく、そこに関してはテコ入れの形で、センターバックの片岡洋介が右サイドバックに起用される見通しだ。片岡の右サイドバックは昨年も何試合かこなしているが、同サイドでコンビを組む渡邉大剛が「攻撃的にガンガン上がってくるタイプではないけど、対人守備は強いし、後ろからのつなぎで足元もある」と評価するように、より安定感は出てくるだろう。

対する柏は、これからＪ１リーグ戦とACL、さらには天皇杯の３兎を追う苦しい戦いになる。21日のACLアルシャバブ戦は工藤壮人のゴールで先制しながら、前半終了間際にセットプレーから失点し、痛恨のドロー。疲労を抱えて大宮戦に臨む。小倉監督は「肉体的に疲れていても、精神的に充実していれば動ける」と、それを単純にアドバンテージとは見ていないが、現実問題としてそこに厳しい残暑も加わるため、ネルシーニョ監督にとっては頭が痛いだろう。しかもここまでリーグ戦12得点のエース工藤が累積警告で出場停止。ケガ明けのコンディションで連戦をこなすキーマン、レアンドロ ドミンゲスにも無理はさせたくないし、酷暑のせいかクレオのパフォーマンスも今ひとつ。田中順也、澤昌克、狩野健太らフレッシュで試合に飢えている選手を積極的に起用して、この難局を乗り切りたいところだ。

もしレアンドロ ドミンゲス不在となれば、柏の最大の武器であるカウンターの威力は半減するが、大宮の柏対策も「レアンドロ ドミンゲスをどう抑えるか」(青木拓矢)が大きな比重を占めており、蓋を開けてみたら空振りの可能性も……。特に大宮にとっては、澤の存在が不気味。昨年末の天皇杯でも、後半から投入された澤にかき回され、０−２から逆転負けした苦い記憶がある。
逆に柏にとっては、前半戦にホームで０−４の大敗を喫した悪夢もまた記憶に新しいはず。リーグ戦ではここ７戦負けなし、ここ２試合を無失点と安定した戦いができているが、ベースとなる運動量と動きの質を連戦の中で保てるかどうか。大宮の前線ではノヴァコヴィッチとズラタンの２枚看板が徐々にコンディションを上げてきているだけに、一瞬も気を抜けない試合になるだろう。

小倉監督は「ひたむきに、一所懸命ボールを追いかけて、戦う気持ちを前面に出して、その先に結果を求めたい」と、初の試合前会見を締めくくった。選手たちが自信を取り戻し、上位争いに食らいついていくために、ここでACL出場チームの壁を越えなければならない。柏とて日程は苦しいが、ここで勝点３を得ればリーグでの順位を大きく浮上させるチャンス。老練な策士として知られるネルシーニョ監督に、新米の小倉監督が挑む構図ともいえるが、オシム氏、岡田武史氏らを支えてきた経験豊富な名参謀だけに、その采配のぶつかり合いに注目したい。

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2013.08.23 Reported by 芥川和久