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【J1:第14節 大宮 vs 鳥栖】レポート:ゲーム運びの拙さを露呈した大宮、肉弾戦に持ち込んだ鳥栖と勝点1を分け合う(13.07.07)

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前半残り10分、1万2千人を超えたほぼ満員の観衆の中でまずあり得ないのだが、ピッチから選手の激しい怒声が聴こえた気がした。見ると水沼宏太が激しく手を叩きながら鳥栖イレブンを鼓舞している。
「今、我慢するところなので我慢しろ! コンパクトにして、自分たちの形にしていこう!」
もちろんその一言で流れがガラっと変わったわけではない。が、後半を通して鳥栖は「自分たちの形」を取り戻し、結果的に首位・大宮を相手に大きな勝点1を手にした。

前半25分までの大宮は完璧だった。鳥栖にまったくサッカーをさせなかった。サイドに追い込もうとする鳥栖のプレスをかわし、少ないタッチでボールを動かすと、菊地光将や高橋祥平から面白いように長いサイドチェンジが両サイドハーフに飛んでいく。鳥栖はスライドが間に合わずサイドを崩され、最終ラインは押し上げられず、縦にも横にも間延びした守備ブロックの間へ大宮にパスを好き放題に通された。
17分、左サイドでボールを拾った青木拓矢が右サイドバックの今井智基へ素早くサイドチェンジ。今井は中へ絞っていた渡邉大剛に預ける。渡邉が長谷川 悠に縦パスを入れたタイミングで、今井がペナルティエリア内に猛ダッシュを仕掛け、長谷川のワンタッチの落としをダイレクトで折り返すと、そこに走り込んでいたのは青木。4人の素晴らしいアイディアとコンビネーションで大宮が鳥栖のゴールネットを揺らした。
鳥栖は苦しい。守備で振り回され、攻撃でもラインを高く押し上げて前線からプレッシャーをかける大宮に、つなごうとしては高い位置でボールを奪われた。そして驚くことに鳥栖は、大宮が恐れていたはずの、自らのストロングポイントであるロングボールをほとんど蹴ってこなかった。攻守の切り替えで大宮に上回られてしまっており、DFラインからロングボールを蹴ろうと顔を上げたときには大宮の準備が完全に整っている状態では、セカンドボール奪取の望みも持ちづらかっただろう。
鳥栖はどこでボールを奪うのか、どうやって攻めるのか分からない状態になっていた。大宮は20分、21分、22分と連続で決定機を作る。この時間帯でたたみかけて追加点を奪っていれば、ワンサイドゲームになっていてもおかしくなかったかもしれない。それでも25分、坂井達弥からのロングボールを胸トラップした野田隆之介が中央へ送り、水沼がシュートを放つ。このシンプルな、鳥栖らしい攻撃がシュートに結びついたことで、鳥栖は苦しいながらも希望をつかみ、逆に大宮はこれをきっかけにペースを落としたように見えた。
30度近い気温のせいだろうか。大宮のパス回しに、隙あらば常に急所をねらっているような鋭さが消えた。ボールを保持してはいるが、どこか緩慢でスピードは上がらず、サイドチェンジも見られなくなった。鳥栖のプレスをくぐれなくなり、むしろ大宮のほうにロングボールが増えていく。25分以降の大宮のシュートは1本にとどまった。もちろん「夏場なので、全部(100%で)行くことは(体力的に)難しい」(長谷川)し、体力の消耗を避けつつリスクを抑え、リードされて攻めに出る相手にカウンターをねらうのも妥当。が、それは結果的に、鳥栖が選手たちの力で「自分たちの形」をたぐり寄せるのを助ける結果となった。ロングボールとセカンドを拾ってのサイド攻撃に、前半の終わりごろには、大宮の守備陣がブロックごと背走する場面さえ出てきた。

そして問題は、大宮は落としたペースが後半になってもそのまま上がらず、逆に鳥栖の勢いの前に「受け身になってしまった」(ベルデニック監督)ことだ。後半のキックオフは大宮だったが、センターサークルからボランチに戻したボールを猛追した池田 圭にさらわれかけフリーキックを与えるという、何とも「悪い入り方」(高橋)をしてしまう。そして鳥栖は、前半が嘘だったように、DFラインからシンプルにロングボールを蹴り込む攻撃を徹底。48分には金 民友のフィードを池田がヘディングでつなぎ、水沼がダイレクトボレー。この完全な決定機は北野貴之のファインセーブで事なきを得たが、前半とは逆に鳥栖の切り替えが大宮を上回り、大宮のDFラインは下げられ、鳥栖の最終ラインは高さを保ち、セカンドボールはことごとく鳥栖のものとなった。
完全に「自分たちの形」を取り戻した鳥栖を相手に、残り時間はあまりに長かった。自分たちの形でできているチームの運動量が落ちないのは道理で、大宮も足が止まっていたわけではないが、切り替えの部分で後手を踏んでいたために動きは鈍く見えた。そして83分、大宮の左サイドで下平 匠から渡部大輔へのパスをカットした丹羽竜平が、前線の池田の足元へ速いパスを入れる。池田は右に開いたエース豊田陽平を囮に自ら斬り込み、足をつらせながら大宮ゴールをこじ開けた。追いつかれた大宮も猛攻を仕掛けたが時すでに遅く、コーナーキックから青木のヘディングシュートはポストに嫌われ、ノヴァコヴィッチも連続してゴールを脅かすが、鳥栖はゴールマウスに人垣を作って阻止し、勝負は痛み分けに終わった。

試合後のミックスゾーンで、大宮の選手たちは口々に「もったいない試合だった」と振り返った。それは勝てるはずの相手に勝点2を奪われた悔しさというより、勝てるはずの試合に勝ちきれなかった、自らのゲーム運びの拙さを反省しての声だったように思える。実際のところ、前半の25分までに試合を決められなかった以上、引き分けは妥当な結果だったと言っていい。
大宮は首位らしく(というと語弊はあるかもしれないが)スマートに勝とうとした。それに対して、鳥栖はあくまで泥臭くボールを追い、肉弾戦に持ち込んで食らいついた。同点に追いつかれてから、10分ほどの間にシュート6本を集中した大宮の攻撃を見ると、勝利への執念は間違いなくある。ただその出しどころ、ゲームコントロールの部分で、その順位にふさわしいものを身に着けなければ、首位争いをしながらこの夏場の連戦を乗り切るのは困難だ。劣勢にあえぎながらも、「自分たちの形」をピッチ内の選手たちで取り戻した鳥栖に、そこは謙虚に見習うべきだろう。大宮にとっては教訓となり、鳥栖にとっては自信となる勝点1。互いに収穫の多いゲームだった。

以上

2013.07.07 Reported by 芥川和久
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