「せまい日本　そんなに急いで　どこへ行く」。これは１９７３年の全国交通安全運動のスローガン募集で内閣総理大臣賞を受けたスローガン。70年代といえば、高度経済成長により日本が一躍先進国となった時代で、「一億総中流」という言葉が現れたのも、この頃。世間の関心が余暇の過ごし方やレジャーに向けられていたこともあり、単なる交通スローガンとしてだけではなく、流行語のように至る所で使われていたことを思い出す。

しかし、実際の日本は、それほど狭くはない。特に福岡からアウェイ遠征に行くと、それを痛感する。今年の５月に推計人口が１５０万人を超えて、政令指定都市としては神戸に次いで６番目になったとは言え、やはり九州から日本各地へ出向くのは簡単ではない。だからこそ、アウェイのスタジアムに集まってくるサポーターの間には、独特な一体感が生まれるのだろう。

そんな中、アウェイにもかかわらず多くのサポーターが集まるのが、ニッパツ三ツ沢球技場。羽田空港に着いてしまえば１時間弱で辿り着けるという交通の便の良さに加え、関東および関東近郊に住む福岡サポーターにとっても行きやすいというのが、その理由だ。横浜駅からは路線バスで15分程度。天気がよければ、小高い山の上までの歩いていくのも悪くない。三ツ沢公園のテニスコートが見えれば、その左奥にスタジアムが見えてくる。テニスコート、球技場、そして陸上トラックが併設されている公園は、いつもスポーツを楽しむ人たちでいっぱい。その空気が心地よい。

とはいえ、そこはサッカー。アウェイの洗礼は確実に存在する（笑）。スタジアムに着くと、まず目に飛び込んでくるのは、開場を待つ横浜ＦＣサポーターの列。アウェイの待機列はその先１００ｍ程のところにあるのだが、ここは通してもらえない。アウェイ待機列を示す矢印に従って左へ折れる。しかし、案内板があるのはここだけ。行けども行けどもスタジアムは見えず、案内してくれる係の人の姿も見えない。ただひたすら住宅街を歩き、少しばかり不安になり始める頃、ようやくアウェイの待機列が見える。正直、ちょっと不親切な気がしなくもない。けれども、この不便さも、実はアウェイ旅の楽しみの１つでもある。

スタジアムに着いたら、まずは腹ごしらえ。もちろん「横浜」を食べる。この日のチョイスは、横浜と言えば誰もが思い浮かべる「崎陽軒のシウマイ弁当」。中身は、シウマイ５個、厚焼卵、鮪のつけ焼き、蒲鉾、鶏の唐揚、筍煮、杏の甘煮、切り昆布、千切り生姜と不変のおかずに、俵型のご飯。初めて発売されたのは１９５４年のことだが、それ以来、中身のリニューアルが行われること11回。現在のお弁当は２００３年にリニューアル以来、11年間に渡り変わらぬ味を守っている。特別な驚きはない。しかし、この安定感こそが「シウマイ弁当」の魅力だ。

さて、記者室で弁当をパクついていると、私が福岡から来たのを知ってか知らずか、地元記者たちが、福岡について話しているのが聞こえてくる。
「そんなに苦手な相手だという印象はないのに、なんでか知らないけれど勝てないんだよなあ」
調べてみると、福岡のアウェイでの横浜ＦＣ戦の対戦成績は４勝４分５敗。しかし、ニッパツ三ツ沢球技場では、２００８年第14節に負けたのを最後に負けがない。

この日、風上からスタートした福岡は、立ち上がりからアグレッシブなプレスで横浜ＦＣを圧倒、前半を０−１で折り返す。だが、風下に立った後半は、逆に横浜ＦＣの攻撃にさらされる45分間。内容からすれば、どちらが勝ってもおかしくない試合だったが、福岡は懸命の守りを見せて０−１で逃げ切った。やはり、福岡にとっては験がいいスタジアムだったようだ。

試合後は、福岡の関東サポーターによる祝勝会に飛び入り参加。いつも会う顔。新しく仲間になった顔。様々な人たちと祝杯をかわす。話の中心は、もちろん今日の試合のこと。そして、愛する福岡の町のこと。ふるさと福岡と、その誇りを背負って戦うクラブの話で、みんなが笑顔になる。これも地元にＪクラブがあるからこそ。サッカーがなければ、決して知り合うことがなかったであろう仲間たちたちとの宴は、いつ終わるとも知れずに続いていく。サッカーがあって良かった。そう思える素敵な時間だった。

◆【J2日記】福岡：アウェイに行こう〜横浜編（前編）はこちら

2013.07.05 Reported by 中倉一志