山形のクラブとしてのキャリアハイは、初のJ1昇格を果たした08年から2度の残留によりJ1で3シーズン過ごした11年まで。その時期に指揮を執っていた徳島・小林伸二監督との対戦は昨シーズンに続いて2年目となるが、今回、徳島のベンチには、山形時代にも小林監督を献身的にサポートした長島裕明ヘッドコーチが入る。山形にとって大切な時代をつくった二人だけに、再び組まれたタッグは強力に見えるが、3月に4連勝して以降連勝がない山形にとって、J1昇格の可能性の可能性を広げるためにもこの一戦は当然越えていかなければならないもの。ちなみに、長島ヘッドコーチがNDスタで対戦相手側のベンチに入るのは、徳島の前身・大塚製薬のコーチだった96年のJFL第20節以来。当時からの山形サポーターには、「判定をめぐり荒れたあの試合」で通じるほど強烈な記憶として残っている。
山形は前節、アウェイで千葉に3-1と快勝。今シーズンは横浜FCから5得点、鳥取から6得点を挙げる試合も演じているが、内容的にはそれをはるかに上回っていた。2-0とリードしたあと強引に仕掛けてピンチを招いた試合運びなど細かいところで課題はあったものの、奥野僚右監督は「監督としてベンチで見ながら自分も興奮し、感動できるゲームだったんじゃないかなと。それぐらい選手たちの一体感と気持ちの入ったプレーが印象的でした」とチームを評価している。タフさの差を痛感しながら京都に逆転負けを喫した試合から、1週間後には90分間走りきる試合ができた要因を、奥野監督は「いろんな理由をつければこじつけられる。原因はいつでも一つではない」としながらも、「全員がいい守備を最後まで続けられた。攻守においていい意識の高さがあり、その結果、ああいう試合にすることができたというのが事実」と説明している。
千葉戦はポテンシャルとしてJ1昇格の有資格者であることを存分に表現できたと言えるが、ナイスショットのあとにミスショットがあればスコアが上がらない。勝点の積み上げを考えれば、「千葉戦のような戦いがコンスタントにできれば」と山形をサポートする誰しもが思うこと。その結果を得るために必要なことは、千葉戦とは違う今節の条件・環境にも的確に向き合い、クリアすること。千葉戦はナイトゲームで気温が涼しいこともハードワークが続く要因となったが、今節は14時キックオフ。また、短く刈られ、たっぷりと水が撒かれたフクアリの芝の状態も好ゲームにはプラスにはたらいた。そして当然、対戦するのは前節と違う選手たちであり、違う戦い方のチームだ。そうした細部にわたる条件を理解し有利に活用する一つずつの作業が、山形を成長と勝利へ導くことになる。
徳島は第4節から3連勝、3連敗のあと、第10節の四国ダービー以降は白星と黒星が交互する状態が継続している。前々節の東京V戦は後半途中から投入されたキム ジョンミンの2ゴールで2-1と勝利したが、前節・富山戦は立ち上がりのスローインで失点を喫し、津田知宏のゴールも0-2とリードを広げられたあとの80分だった。小林監督は「試合を大事にして構えたり、パスを回したりする一方で、ダイナミックに突破したりクロスを入れたりするプレーを増やさなければいけないと感じた。大事にゲームを構えるゆえに、どうしても連勝ができないという状態に陥っている」と話す。連勝して上位を狙うには、チャレンジとリスク管理の適正値をつかむ必要がある。
今シーズンは3バックでスタートしたが、第13節・熊本戦を0-3で落とすと、翌節・水戸戦ではスタートから現在の4-4-2を採用。前半だけで3得点を挙げ3-1と勝利した。ロングボールから起点となれる津田とキムを前線に配しているが、ボランチ2枚には濱田武と青山隼、さらに柴崎晃誠をサイドで起用するなど、プレッシャーのなかでも落ち着いてボールを動かしたり、つくり直してサイドチェンジできるだけの技量は備えている。今節はセンターバックでプレーしてきた斉藤大介が出場停止となるが、フォーメーションや基本的な戦術の変更はなさそうだ。
山形が狙うのは、ここ数試合かけてスタイルとして定着しつつあるコンパクトな陣形。前線からプレッシャーがかかり、セカンドボールも拾える展開が望ましい。一方の徳島は守備への切り換えでブロックの形成が早く、相手サイドバックの攻め上がりに対してサイドハーフが付いて自陣深く戻るなどマークの把握を徹底している。フォーメーションでは4-4-2同士とマッチアップするが、その運用方法の違いは90分間の随所に見てとれそうだ。そのなかでポイントは、それをどれだけ得点に結びつけることができるか。
ハイプレスの対価として、山形は背後に大きなスペースを空けることになり、また、両サイドバックが敵陣に入り込むなど高い位置でプレーするだけに、守備への切り換わりでは細心のリスク管理が求められる。津田、キムの2トップにスペースを狙われることも十分予想されるが、千葉戦でセンターバックに入り、フリーキックから先制点も挙げた堀之内聖は「徳島は縦や裏に速い選手が多いですけど、それにつられてズルズル下がったらいいサッカーはできない。できるだけラインは高く保って、前節のイメージでいきたい」とあくまで真っ向勝負にこだわる姿勢を見せる。
一方、自陣に形成するブロックで相手のパスを網にかけたい徳島に対し、山形はダイナミックな動き出しで相手を引き連れ、ギャップを次の選手がうまく利用したり、ブロックの間、間で少ないタッチ数でボールを回し守備をはがしていけるかどうか。サイドで数的優位をつくることは難しそうだが、そこからマイナスのクロスが入れば大きなチャンスとなりそうだ。
08年、廣瀬智靖らとともに高卒ルーキーとして加入し、6年目の今シーズンにようやくスタメンに定着した山田拓巳には「あれだけいろいろ教えてもらったなかで、成長はできたが、力になれなかった」との思いがある。それだけに「監督として最初に小林伸二さんに教えてもらってすごいよかったなと思っているので、成長した姿を見せたい」と恩返しのプレーを披露する。
以上
2013.06.07 Reported by 佐藤円
J’s GOALニュース
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