とんでもない殴り雨にさらされたある日のこと。練習を終えた田中秀人を取材していると、そんな悪天候が嘘に思えるような“うれしい出来事”を教えてもらった。それが4月26日にクラブのホームページで発表された、待望の第一子誕生。その日は生まれてくる娘さんの話題で持ち切りになった。
ところがその中身は「赤ちゃんはだいたいガッツ石松さんみたい」というもので、「絶対かわいいじゃないですか!」との投げかけにも「どうでしょうかね(笑)」と少し控えめ。……というよりクールな彼だから顔には出さなかっただけで、隠しきれぬうれしさが伝わってきた。
話は少しそれるが、ちょうどその時期からチームは新システムへと舵を切り、徐々に形を成してきた。[3−4−2−1]に取り組み始めた4月28日の第11節・山形戦から一ヶ月が経ち、選手たちの口からは「慣れが出てきた」という言葉が聞こえるようになってきた。5月26日の第16節・福岡戦では、田中自身にも愛娘の誕生を祝うかのような豪快な今季初ゴールが飛び出すなど、チームとして攻撃の形も増えてきている。もちろん、なかなか結果が付いてきていないだけに満足する選手はいないが、大事なのは強い信念を持ってやり続けることである。田中も「少しずつ良くなってきたとは思う」とチームの成長曲線を口にしている。
チームのシステム変更と時を同じくして、田中の第一子誕生からも一ヶ月が経過した。あらためて「(娘さんは)やっぱりかわいいですか?」と聞いてみると「存在そのものがかわいいです(笑)」と、うれしそうに返ってきた。容姿ではなく存在のキュートさを強調していたが、愛娘もチームも成長していることは確かなのだ。
とはいえ、愛娘とチームの新システムの“誕生日”が、ほぼ同じ日であることについて本人は気にしていないだろうし、田中はサッカーに対して真摯そのもので強い信念を持つ、論理的な選手である。自身、久しぶりのゴールに「うれしかったです」の一言で終わったのも、勝利に結びつかなかったからこそで、成長の陰にも敗因があることを理解しているからだ。チームの新しいシステムで初勝利を手にしたとき、そして生まれたばかりの愛娘に初勝利をプレゼントできたときが、チームにとって、田中にとって、本当に喜べる日となるに違いない。
以上
2013.06.01 Reported by 村本 裕太
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