松本にとっては、Jリーグ加盟後もっとも内容の良くない試合だった。ただ、「戦う気持ちがなかった」「最下位の岐阜を甘く見ていたのでは」という意見は当てはまらないように思える。試合後の選手たちからもその点については明確にNOという解答が聞かれており、単純に“アウェイチームの方がホームチームよりも強かった”ということだろう。
負傷者続出の岐阜は、清水から加入したばかりの樋口寛規を早々に先発起用するなど台所事情は厳しいものの、美尾敦や染矢一樹など攻撃に携わる選手たちの能力は決して低くはない。しかし全体的に寄せが甘く、またボールを持ってもすぐに奪われたり自らのミスで簡単にボールを失ったりとなかなか効果的なビルドアップには至らない。一方、対する松本も良くはなかった。ボールを保持する場面はあっても得点には届かぬまま、じりじりとした時間が流れた41分に均衡が破れる。左サイドからの鐡戸裕史のクロスが強風に流され、軌道を変える。時久の手の上を超え、ゴールネットへと吸い込まれた。本人曰く「ふんわり気味のボールが風の影響で入った」とゴール直後には顔を両手で隠すという幸運な形だったが、喉から手が出るほど欲しかった先制点を得て、有利な立場に立った。
とはいえ、まだ45分間ある。エンドが替わって風上に立った岐阜はその自然の力を借りるべく、ロングボールやミドルシュートで隙を突こうと試みるが、前半よりも勢いを増した感のある風は目測を誤らせ、前線の樋口になかなかボールが収まらない状況に陥った。松本も同様で、お互いにボールが足につかず、フラストレーションが溜まる展開。すると行徳浩二監督はパワープレーを狙い、長身ディフェンダーの新井をフォワードとして投入するという勝負に出た。すると79分。その賭けが的中する。左サイドの染矢からのクロスにドンピシャのタイミングで飛び込んだ新井のヘディングで試合は振り出しに戻ると、その僅か5分後にまたも染矢のクロスにファーサイドから走りこんだ新井が、多々良敦斗のマークをものともせず188センチの巨体ごとボールをゴールへと押し込み、勝負あった。8試合目にして岐阜が初得点&初勝利を手中にした。
試合後、行徳監督は「ゴール前で迫力が欲しかった」と新井のフォワード起用について語ったが、ベンチに中島康平・杉本裕之と本職のフォワードが控えており、パワープレー要員という明確な目的があったにせよ、結果が出ないと不協和音に繋がりかねない采配でもあった。しかし、この危険なギャンブルに勝った行徳監督としては、してやったりといったところだろう。そして、またもホーム初勝利を逃した反町康治監督は「失点が多いのが気にかかる。ぶつかり合いで負けているのが気になるのは正直ある」と、1対1の競り合いや空中戦など、局面で負ける場面が多い点について不安をチラリ。とはいえそこは「すぐに改善されるものではない」のも事実。ここ数節、ホームでは高い授業料を払い続けているが、気の遠くなるような作業ではあるが、そこは一つ一つ課題を克服していく他はない。風の力を借りた“偶然”の1得点と、明確な狙いのもとに生まれた“必然”の2得点。失うもののない岐阜の前に後手に回った松本、ホーム初勝利はまたもお預けとなった。
そして本日のヒーロー、新井辰也。プロ入り以来ずっと怪我に泣かされ、そのポテンシャルを発揮する機会は少なかった。昨年も岐阜で3試合に出場したのみ。しかし、「面倒を見てくれたチームに恩返しを」するために、これまで長いリハビリにも耐えてきた。その戦いを認めた蹴球の女神が微笑んだのだろう。普段は意地悪な女神だが、時には味なことをする。
以上
2013.04.15 Reported by 多岐太宿
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