実は、周りの人――甲府に勝ってほしいと思っている人たち――ほどには、ショックを受けていない。試合を観ながら(攻撃の形を見い出せない名古屋を相手に、前半から主導権を取った甲府がもし1点も取れなければ、そのうち田中マルクス闘莉王か藤本淳吾にやられる…)という想定もしていたし、甲府の試合内容は悪くなかったから。
90分を3分過ぎたアディショナルタイムに甲府が与えた自陣ペナルティエリア外でのFK。藤本は交代していたのでキッカーは田口泰士。気になったのは、甲府が作ったオフサイドラインが気にならないかのように闘莉王がぶらぶらとした足取りでゴールのほうに歩いていく姿。一旦はゴールラインを踏んだものの、水を飲むわけでもなく、今度はFKのに興味がない素振りでゆっくりした足取りで戻り始めると、蹴る瞬間にちょっと下がるオフサイドラインを目指して半円を描くように全力で戻りながらヘディングをするスペースを作った。オフサイドラインでガチャガチャやるよりも自分のペースでスペースを作れるし、相手がマークしにくいからやっているのだろう。
で、ボールは彼に合わなかった。少し前気味に出過ぎた荻晃太がジャンプしながら両腕でキャッチしようとしたが、こぼれて、それを本多勇喜が決めてそれまで超不機嫌だったストイコビッチ監督の感情が真逆に振れた。推定85センチのジャンプ。失点シーンはGKのキャッチミスといえばそうだけれど、荻は後半12分に田中隼磨のミドルをスーパーセーブしているし、あの内容で1点も取れないことのほうが問題。試合終了後、結構冷静にピッチを見ることができた。
J2暮らしが長いので「超有名選手(闘莉王)を近くで見て大きさや迫力を確認したい」という欲求が若干あって、試合前のアップに名古屋のフィールドプレーヤーが出てくるのをベンチ前で待ち受けていた。闘莉王が歩いてくる様の擬音語は「のっし、のっし」で、絶対に「てくてく」や「とことこ」ではない。見慣れていないので「お〜っ」って声に出したくなる迫力があった。フジテレビの「スポルト」でやっている実況の雰囲気のまま。
実際に試合が始まって、闘莉王が1トップに入ってプレーしている姿に――運動量がないので――恒常的な怖さはないけれど、ここ一番で決定的な仕事をする怖さはあった。
名古屋の前線には怖い人がいてもあまりボールが収まらないから、主導権を取る時間は甲府のほうが長くなった。名古屋のディフェンスラインがロングボールを前に入れようとする→収まらない→甲府ボールになるという展開。甲府は柏好文が前を向く意志・テクニック・スピードを素晴らしく発揮したが、他の選手は悪くはないけれど怖くもない迫力不足。迫力で勝ち負けが決まるわけではないだろうが、名古屋のDFが「ヤバイ」と思った回数はコッチが思っているほどは多くないはず。甲府は相手ペナルティーエリア付近まで行ったら、シュートで終わるか失うリスクを怖がらずにドリブルで仕掛けてチャレンジする回数を増やさないと、ブランドバッグをプレゼントするわけにはいかないゴールの女神の気は惹けない。例えば、金子昌広はボールを失わない素晴らしい選手だけど、遠慮しないでもっとチャレンジすればもっといい選手になれる。ただ、試合ごとにウーゴがフィットして、試合ごとにうまさを魅せるようになっていることは甲府の収穫。決定機の数はまだまだ増やせる。リーグも違うし、鹿島に行ったダヴィほどのゴール数を期待することはないが、ダヴィ並みに頼れる選手、軸になる選手になってくれそう。
前半の甲府は主導権を取りながらも決定機を思ったほどは増やせなかったが、名古屋に決定機はほとんど与えなかった。名古屋がカウンター攻撃を仕掛けても決定機を作る前に、気分は20代後半のオジサンCBコンビ(土屋征夫・38歳、盛田剛平・36歳)を中心にディフェンスラインとGKが身体を張って防いだ。終盤にはセットプレーから盛田のシュート、それも足のシュート2連発や土屋のドンピシャヘッドでゴールを狙ったが決められなかった。(そのうち甲府が点を取るでしょう)という期待を持って後半を迎えたが、56分に左サイドバックの松橋優が2枚目のイエローカードで退場になってからは名古屋タイム。記者席から(人数の差は運動量で補うんだ)と心の中で指示したが名古屋がダニルソン、矢野貴章とフレッシュな選手を投入して4−3−3から4−4−2にメタモルフォーゼで主導権は失わず。
甲府は中盤に保坂一成、石原克哉を入れて4−4−1で対抗。時間ともに甲府が厳しくなることはわかっていたが、点を取れる流れは完全には途切れてはいなかった。韮崎高校出身の新旧ダイナモ、柏と石原が揃ってピッチに立っていたのだが、後半の終盤になると前に起点が作れないことが顕著になってずっと守っている感じ。ウーゴも、入ったボールをワンタッチ・ツータッチしてもサポートが少なく、結局ボールは名古屋のものになる。甲府は“ゴールを決める”より前の“決定機を作る”という段階にもあらずで、“相手のボールを奪う”ということが自陣で何とかできるという状況。城福浩監督は、“ゴールを決める”、“決定機を作る”ウーゴを外して最後の1枚の交代カードで“ボールを奪う”河本明人を投入した。ボールを奪う回数を増やして、そこに勝機を見出そうとした。ベンチにはセンターバックドウグラスもいたが、「10人でも勝点3を取る」という決断。アディショナルタイム4分間の勝負だった…。
見たくないシーンだったけれど、後でスカパーオンデマンドで見ると何でもないミスに見えた。記者席で見た印象と違うことが不思議だった90+4分の失点。結果を知って見るサッカーとスタジアムで生で見るサッカーの違いなのだろうか…。テレビ局のリクエストに応えてミックスゾーンのインタビューエリアに現れるときの荻はスタスタと歩いてきて、前を向いて話した。「僕のミスで勝点を落としました。チームのみんなと応援に来てくれた人に申し訳ない」。
来週のヤマザキナビスコカップ・ウィークに城福浩監督がどんな選手起用をするのかわからないが、荻1人に負けた理由を押しつけるような試合ではないし、そういうチームでもない。C大阪、名古屋とまだハマっていないチーム相手にホームで連敗したけれど、まだ3節。彼らより大幅に少ない規模の予算でも、攻撃も守備も形を作り、精度を上げていく段階にいるのだからそれを信じて進めば結果はついてくる。
対して、名古屋は勝ったけれど、ストイコビッチ監督が会見で話した「自信が戻ってくると思う」という言葉はしっくりこない。自信よりもケネディが戻ってくる方が重要な状況ではないだろうか。2013年のJ1リーグの荒野はまだまだ見えてこない。
以上
2013.03.17 Reported by 松尾潤
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